第468話 虚空を見る.18
ガクガクと脚が痙攣し、生ぬるい液体が地面へと滴っている。だけど、そんなの今は問題ない。
「あああぁぁああああーーーーッッ!!!」
腕に剣が突き刺さったままでも関係ない。
そんな余裕すらない。
思い切り踏み込み、全ての力をただ剣を飛ばすためだけに費やす。
魔力が霧散しようと、氣が掻き消されようと、目は敵だけを捉え、持てる限りの力でもって投擲した。剣が飛んでいく。真っ直ぐ、敵に向かって真っ直ぐに。
『うわっ!避けろフォルテ!』
『!』
真っ直ぐ飛んできた物を視認し、それが剣だと確認するや、サラドラは驚き慌ててフォルテに声を掛ける。
フォルテはすぐさまその場から体をずらした。その直後、今までいた場所を剣が通過する。その剣に込められた物を感じて、サラドラはぞわりと悪寒が走った。
あれに当たっていれば、今度は切断どころじゃ済まなかったかもしれない。
そう思うと、次いで激しい怒りが込み上げてきた。
何故あんな小物に恐怖を覚えさせなければならないのか、と。
絶望を与えるだけが今回の仕事だと言われ、奴の仲間を皆殺しにし、更に死体も持ち去り完璧に仕事をこなしてみせた。
胴を斬られるという予想外の事もあったが、こんな仕事は朝飯前の筈だった。
なのに、サラドラは今回4回も驚かされてしまった。
その事にフツフツと苛立ちが膨らんで、今すぐにも消してやりたい衝動が抑えられない。
あれだけで足りるものか。
いいや、足りるはずもない。
現に奴の脚の腱を切断してやったというのに、立ち上がり剣を投げてきたではないか。
放っておけば、厄介なものになるかもしれない。ならばいっそのこと──。
掌を奴に向ける。
──始末してしまおう。
なんだコレは、と、カリアは目の前に広がる光景に愕然としていた。
遥か上空から眺める地上は、とある地点から何も無くなっていた。それこそ草一本すらなく、見えるのは黒と赤と、雪のように舞う白い灰のみ。
ちょっと前に前方に見えた白い光が関係しているのか?
その光景はルキオのものと何処か似ており、隣でアウソが固まってしまっていた。
ああ、そういえばこいつはずっと海にいて、陸に戻ってきた時もこんな顔をしていたな。涙は流さなかったが、目の前の光景を睨み付けるようにして目に焼き付けていた。
『おい、なんか前方に見えるぞ』
グレイダンに言われて見てみれば、翼を持つ者が両腕に何かを抱えて飛び立っていた。
「師匠!あそこ見て!!」
キリコが焦りの声を上げ、指差している。
アウソもそれに気が付き身を乗り出す。
焼かれた大地にぽっかりと残された場所に誰かが立っている。その周りには赤いモノが散乱し、その誰かも赤く染まっている。
こんなにも遠く離れているのに、カリアはすぐさまにその誰かが、彼なのだと気が付いた。
『あっちにもなんかあるぞ。なんだあれ?柱か?』
『どうする?どっちいくか?』
竜達がグレイダンに指示を求める。
その時、翼を持つ者の方からとんでもない殺意が放たれたのをカリアは感じた。魔力が急速に集まっていく、魔法を放つつもりだ。誰に?そんなの決まっている。
「グレイダン」
『どうした?』
「師匠?」
「カリアさん?」
グレイダンの上でカリアは立ち上がった。
「ちょっと堪えるよ」
『は?』
グレイダンは何が?と首を捻るが、何かをするつもりなのだと察したキリコとアウソがグレイダンにしがみついた。それを確認するやカリアは脚に力を込め、思い切り体制を低くした。
カリアから魔力が溢れ出す。
『!!!!?』
どごおおおん、と、爆発音を響かせてグレイダンが横に吹っ飛んだ。
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