第401話 戦場へ.13

視界がぐるぐる回転し、ネコが体制を立て直そうとするも変な力で引っ張られて、そのまま地面に叩きつけられた。


立ち上る砂埃に衝撃の凄さが思い知らされる。数秒後、激痛が襲ってきた。


「いってええ!!!」


『目が回るるる……』


頭と背中強打し手で押さえながら転がる横で、ネコが目を回して千鳥足で何とかバランスを取ろうと努力をしていた。


「隊長大丈夫ですか!?」


聞き慣れた声に顔を上げると隊員達が心配して走って来ていた。マウンテンタートーははるか遠く、ずいぶん飛ばされたようだ。マウンテンタートー影が南の方へ飛んでいく影が見える。逃げられたか。


「大丈夫だ」


痛みもだいぶ収まり立ち上がる。剣も種も無事だ。


「いやでも凄い血が出てますよ」


「大丈夫大丈夫。もう治した」


「本当ですか?」


部下からの疑いの目。信用がない。

確かに血みどろで大惨事になってるが、常日頃から怪我は余裕があるときにすぐに治療しろと口を酸っぱくしていうオレがそのままにしておくわけがないだろう。

なので、ちょっと冗談をかましてみた。


「証拠でも見せようか?」


「!?、いえ!失礼しました!!」


なのに部下は大慌てで首を高速で横に振った。そこまで首を振られると逆に傷付くんだけど。まぁいい。


「それより、今状況どうなってる?」


「はっ!敵の主要施設爆破ならび、敵の殲滅が完了しております!」


「あと、なにやら怪しげな物や、開かずの間などは現在調査中であります!!」


怪しげな物。あの種とかか?


「ルツァはどう?」


「今のところまだ二体程しか遭遇しておりません!!」


「まじか、ここにいるルツァが全部集まってきてたのか。道理でなかなか減らないと思った」


最後津波のように押し寄せてくるのを見て、単機で突入したの不味かったかなと少しの後悔した程だった。


「はい!さすがであります隊長!!」


だが部下が目をキラキラとさせている以上そんなことは言えない。


「とりあえずラビと、トビアス守衛隊隊長と合流したい。何処にいる?」


「案内いたします!!」


敬礼をする部下に頷いて、そろそろ良くなっただろうと足元のネコに呼び掛けた。


「ネコ行くぞ。……大丈夫?」


だが、ネコは伸びたまま辛そうだ。目が回っただけではなく酔ったか。物理攻撃効かない癖にこういうところ弱いんだよな。


『だいじょべない~……、ごめんちょっとはこんで……』


「はいはい」


ネコを小脇に抱えた。








その後調査の結果、生き残った悪魔達は南へと後退していった。


種はいわゆる悪魔のドーピング剤で、動物や魔物に服用すると、細胞が混沌属性の魔力によって変異し、ルツァに近い生物へと姿を変えることが判明した。今後、この悪魔の実によって変異させられた生物をルツァと区別するため、変異体と呼ぶことにした。特徴は、普通のルツァとは違い、頭に黒い歪な角が生えていること。黒い歪な角は摂取した混沌属性の魔力が吸収され切れずに角のようにして皮膚を突き破ってくる、もしくはあらかじめ生えてる角と同化するらしい。

そして、開かずの間のついてだが。


「……嘘だろ」


「ひでぇ、酷すぎる……」


中には数十人の女性や子供の遺体が転がっていた。

繋がれたまま引き裂かれたものや、気が狂ってしまっている者、欲望のまま弄ばれ殺された者、体のあちこちから血が吹き出し、あるはずのない歪な黒い突起が頭から突き出ていて、明らかに実験体にされた者もいた。


それらの者には決まって太ももに商品番号の様なものと、黒い石を掴んだ猛禽類の鈎爪の入れ墨があった。その瞬間、オレは頭の中が燃えるように熱くなり、思わず誰彼構わず叫びそうになった。


これは、鷲ノ爪のマーク。


魔方陣とは別に刻まれてたり、コロシアムの壁にこのマークがあった。


頭の中に連れていかれた女性達の姿が思い浮かぶ、もしかしたら彼女たちもこんな風に…。


「おい」


「!!」


ラビが肩に手を置き、心配そうな顔で見ていた。


「大丈夫か?外にいとくか?」


「いや、大丈夫。早く解放してあげよう」


総勢60名、内生存者11名。その中でもまともに話せるのはたったの2名程で、その方達も過労と栄養失調になっており、救出された安堵の為か意識を失ってしまったので、聞き取りは意識が戻り次第と言うことになった。


「あー……、疲れた……」


熱々の珈琲が入ったコップを手に持ちながら空を眺めつつ呟いた。戦闘ハイからの落差が酷い。

恐らくソンヤの泡によってだいぶ魔力を削られたからだと思うが、戦闘中は気にならなかったのに一段落ついたら押し寄せてくる倦怠感にため息に近いものが出てくる。


『腹へった…』


「もう大丈夫なのか?」


『うん、今は空腹で死にそう』


「忙しいやつだな」


しばらく影の中で寝ていたネコが起きてきた。


『何飲んでるの?』


「珈琲」


『飲みたい』


猫って珈琲大丈夫なのだろうか?いや、そもそもこいつ猫の形しているけど猫じゃないし、大丈夫か?


「熱いから気を付けろよ」


ネコは珈琲を少し飲んで息をついた。


『美味い』


「そりゃあ良かった」


しばらく星を眺めて、何故鷲ノ爪のマークがついた女性が悪魔の施設にいたのかと考えた。悪魔にとって人間は敵で、食料じゃないのか?

オレの知ってる悪魔は人間を食らう、なのに鷲ノ爪と交流があるのは何でだ?鷲ノ爪も人間の組織の筈なのに。利害の一致とかなのか?


見世物にされていた頃の記憶を呼び覚まし、何かヒントになるものがないかを探ったが、記憶がやや朧気で決定的なものを見つけ出すのには至らなかった。


『…………、ねぇ、質問なんだけどさ』


「なに?」


『本当はいつから悪魔の攻撃にあっていたんだろうね』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る