第394話 戦場へ.6
翌日。
「では行ってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
『行ってきまーす!』
ネコを肩に乗せ、部下達とはここで別れていざ出発。昨日見付けた穴は、必要な所以外全てふさぎ、一番近い穴から侵入する。今回灰馬は目立つので、徒歩だ。
長い間戦争状態だった為、街の周りの草が刈られていなくて良かった。十分に身を隠せる。
「こういうの久し振りだな」
『ね。たまにはこういうの良いよね』
ほんの二ヶ月半程しかハンター生活から離れていなかったのに、体が凄く生き生きしている。
どうやらオレの体はすっかりハンターに染まっていたようだ。
キャンプの位置と街の見方から、頭に叩き込んだ地図を照らし合わせて現在地を割り出す。
今のところまだルツァには遭遇していない。ただ、気になることがひとつ。
「小動物が多いな……」
ここに来るまでに多くの小動物の姿を見た。
通常、強い動物同士が争う縄張り内には、身の危険を感じた小動物は身を隠すか、この地から離れていってしまう。それなのに数多くのルツァが
『ライハ、あそこなんか落ちてる』
ネコが示す方向に目をやれば、草むらの影に黒いものが落ちている。
「……なにあれ?」
『さぁ?』
尾で草を掻き分け拾い上げると、それは爪ほどの大きさの種だった。何の種かはわからないが、何だか妙に惹かれる。もっと言えばソレを今すぐにでも口に入れ、噛み砕き飲み込みたい衝動に駆られる。だが、それと同時に理性が止める。
今すぐそれを投げ付けて踏み潰せと。
直感だが、これは“良くないモノ”だ。
『どうするの?それ』
幸いネコには効かないらしい。
「…………これは一度見てもらった方が良いかもしれない」
きっとそういう類いのものだろう。
ハンカチに包み、腰鞄に仕舞い込んだ。
街をぐるりと回りながら、エミリアナが言った森に辿り着いた。
何処にでもありそうな、普通の森だ。だが、一つだけ違うことがある。先ほどの草原には小動物がたくさんいたのに、この森には獣どころか小鳥すらいない。
しんと静まり返った森をしばらく行くと。
「あった」
小屋を発見した。小屋といっても家とかではなく、どちらかと言えば倉庫のような。
「ネコ、頼んだぞ」
『よっしゃ、サポートお願いね』
左目だけ視覚共有状態にしてネコが僅かな隙間からするりと中に入っていった。
ーーカサ……
「!」
物音がしてそちらを見ると一匹の鹿が草を食んでいた。何処にでもいるモノシカだ。だが、何故か鹿から目が離せない。その内鹿が視線に気付いてこちらを向いた。
ネコは体の形を変え、するりと僅かな隙間からなんなくとおりぬけた。目の前にあったのは山積みになった麻袋だ。中身は何なのか分からないが、パンパンに詰まっていた。
(何処か抜けられる所)
上を向いて足を掛けられる所を探す。
何も音はしない。生き物はいない。少なくともこの部屋には。
『にっ……!』
思い切り飛び上がり、シミュレーションした通りの軌道で足を動かせばネコは意図も簡単に天井近くの
下を見れば麻袋が部屋一杯に積まれていた。他には何もない。
『?』
近くの袋に飛び乗り、爪で引っ掻いて穴を開けるとコロコロと黒い塊が落ちた。
『なんだろ』
下に落ちていったモノを追い掛けて見てみれば種だった。黒い前肢の肉球程の。それは此処に来る途中で見付けたものと同じ。
『これ、さっきの……。!!』
耳が音を拾い上げた。足音が2つ。こちらに近付いてくる。急いで梁の隠れると、扉が開き誰かが入ってきた。
人の形をしているが人ではない。頭から生えた黒い角がその証拠だ。
キッチリ武装した悪魔二体が麻袋を3つ手にした。
「! おいこれ」
気付かれたか?
足元にある種を拾い上げ、破けた麻袋を発見した。しまった。破けば良かった。
「はぁー、誰だよ。雑に置いた奴。破けてんじゃねーか」
「あ?うわ本当だ。これバレたらアグゥー様に殺されるぞ」
「隠すか?」
「隠すべ」
隣の麻袋を退かし、破けた袋を下の方に隠した。
「さぁーて撒きに行くかぁ」
そう言うと悪魔達は部屋から出ていった。
『………よし』
ネコはそろりと梁から飛び降りると、扉の下をすり抜け後を追い掛けた。
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