第393話 戦場へ.5
──ビィィィーー……
「!」
遠くから緊急の笛の音が響いてきて顔を上げた。方向は東。先ほどまでここまで後退してくる前の地図を広げ、これまでのルツァの種類と攻撃の仕方の説明をされていたのだが、突然響いてきた笛の音に、エミリアナ以外の面々がオレと同じくなんだと顔を上げていた。
扉が開き、ラビが飛び込んできた。
「ライハ!ルツァだ!」
「分かった。失礼します」
外に出てみると、両方合わせて五つほど杭の光が空に一本筋を立てて主張していた。破られ過ぎじゃないですかねぇ?
そもそも結界は見えるものにしか見えないから確認する術が無いのは分かるが、せめて一般人でも確認できるように“霧晴らし”の魔方陣札を一緒に配布しておくべきだと思った。
『ライハあっち!』
「隊長!!」
隊員が灰馬を連れてきた。良くできた隊員で隊長嬉しい。灰馬も鼻息荒く走る気満々だ。良くできた馬である。
騎乗し笛が鳴った方に走らせる。
灰馬が全力で走ると、遊撃隊の鍛えた駿馬でもグングン差を付けていく。見えてきたのは近くにいて、笛の音ですぐさま駆け付け、先に到着していた仲間達が二頭のルツァと戦っていた。
見た目タイガーフォックスだが、黄色の体毛は灰色で、何故か角が生えている。
前肢の片方が切断された一本角と、一回り体の大きい二本角が隊員達が攻撃しているが、元々タイガーフォックス自体が気性が荒いので抑え込むのに苦労しているようだ。
「隊長!!」
「状況は?」
「ダリウスが軽い怪我を被いましたが、今後方で治療を受けているので問題はありません。エミリアナさんも無事です!」
「そうか」
安心した。なら早いところルツァを何とかしないと。
ずっとルツァの方を向いているネコの頭を軽く叩く。
「ネコいける?」
『貰っていいの!?』
まさかくれるとは思っていたかったからか、ネコがキラキラとした瞳を向けてきた。
「二本角の方だけな」
『やったあ!!』
お菓子を貰ってはしゃぐ子供のようにネコは肩から飛び出し、すぐさま巨大化するとルツァに飛び掛かっていった。途端、隊員達の士気が上がる。これでもう安心だろう。
後方に下がったダリウスの元に行くと、腕に包帯を巻いているがわりかし元気そうなダリウスがいた。
「大丈夫か?」
訊ねると、ダリウスがこちらを向いて隊長!と声を上げた。
「はい!まさかもう一体現れるとは思いませんでしたが!」
「軽い傷で良かった」
こんな初っぱなから大怪我でもされたらどうしようかと思った。そうしたらまた最初から鍛え直ししないといけないと考えていたから。
「心配をお掛けしてしまい申し訳ありません。でも治療魔方陣札を使ったので、じき復帰できます!」
そう言いながらぐるぐると怪我をした方の腕を元気一杯振り回し始めた。傷が開くからやめなさい。
元気なのを確認し終え、そろそろ片が付いたかなと戻ろうと踵を返すと、いつの間にかエミリアナが背後に立っていた。
「あ、えーと」
こちらを見て言い淀むエミリアナ。
怪我でもしたのか?
「エミリアナさん、何処か怪我でも?」
「いえ、助けてもらったから。向こう片付いたしお礼を言いに…。そうだ」
ピッとこちらを指差す。
「あの人、せっかく良いセンスしているのに。剣術もっと教えて上げなさいよ」
「? はい」
あの人とはダリウスのことか。
エミリアナが去っていった方を見れば、言った通りエミリアナがダリウスにお礼を言っている所だった。後日ダリウスと剣の打ち合いでもしてみるか。
□□□
今回出現したのはタイガーフォックスのルツァ二体。
今まで出てきたものでも狂暴な種類だ。普段は蛇や猿、とかげ、ネズミ等だ。
「ネズミ型のルツァだからって甘くみるなよ、ここより二つ前の街はそれでやられた」
というのはトビアス。
まさにネズミの津波で、あっという間に飲み込まれ、避難が間に合わなかった街の人と仲間が消えた。
「憎らしいことに奴等は街をやるルツァの種類を変えるんだ。おかげで毎回攻撃パターンを見いださなくてはならなくて犠牲が出る」
「次は攻撃力の強いので一気に潰す気なのでしょうか?」
元々攻撃力も防御力もあまり無い自警隊にとっては最悪なパターンだ。せいぜい後ろで怪我人を搬送することしかできない。
「さてな。どっちにしてもここで止めなきゃ後がない」
なんせ此処より後ろは迎撃できる街がない。突破されれば中部近くまで一気に押し込まれる。
「で、ライハ。君は小屋の中探ってどうするんだ?」
「もし本当に小屋の中でルツァが飼われているなら、放たれる前に全滅させます。飼われていなかったとしても、その小屋に何かがあれば全力で破壊し、もっと言えばそこから奇襲を仕掛けますよ」
「本当に大量にいたらどうするんだ?」
「ご心配には及びません。何体いても特に問題はありません。考えがありますので」
ルツァだけならなんとかなる。不安なのはリューシュやジョウジョの様な強い悪魔がいた場合だ。だが、それでもなんとか渡り合えるようにニックに吐くほど魔術を叩き込まれたんだ。成せば成るだろう。
あの思い出すのも嫌な空間で、オレは泣きたくなるほどしごかれた。正直、あの空間にどのくらいの間いたのなんて覚えていない程だ。記憶もちょいちょい怪しい。
「……分かった」
エミリアナが溜め息を吐きながら椅子に深く腰を下ろした。
「エミリアナ?」
「あんたの部下をあそこまで育て上げ、なおかつ部下に強いって言わしめる。それは凄いことよ。ちゃんと教育者としての義務を果たしているし、部下のいのちを背負っているという自覚がある。だから、我々偵察隊は協力する」
エミリアナは真剣な顔で、それを見てトビアスとジェライスも分かったと頷いた。
「ただし必ず成功させること。それが条件」
「勿論です」
じゃなければオレ達が来た意味がない。
「では明日、頼んだぞ遊撃隊」
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