第373話 謝罪

久しぶりのライハの姿がずいぶん変わっていたことに驚いた。


最後に見たときよりも背は伸び、筋肉がついて逞しくなっており、髪も随分と伸びた。いや、体だけの変化じゃない。肌は良く日に焼け、あちこちにうっすらと傷が治った痕がある。それは大きいのも小さいのもだ。

だが、それよりも驚いたのが目だった。赤く変わっているのも勿論驚いたが、それよりも、色々見てきた目、命の重さを知り、また、状況によっては奪う覚悟を持った本当の男の目に変わっていたのだ。


(…フリーダンの言う通り。体も心も変わっている)


人間時が流れれば変わるものだが、一年近くで此処まで変わるとは。


ライハはこちらを見て一瞬誰か分からなかったようだ。ノーブルで此処で激しい戦闘があった話を聞き付けて、国境なき医術師団に参加し、フリーダンとナナハチが治療魔法が使えるので許可され、ノノハラはその護衛として雇われた。

清潔、純白の心であるマント、癒しの青をマークとして背中にもつ制服を身に付けているのでノノハラだとは気付かなかったようだが、目が合うとハッとした顔をした。


「ノノハラ?」


名前を覚えていてくれたらしい。

あんな仕打ちをしたから忘れられていると思っていた。


「そうです。久しぶり…」


名前を呼ぼうとして、名前を呼んだことか無いことに気が付いた。ライハだと馴れ馴れしいし、アマツ、とかが無難だろうか。


何とか笑顔を作ってみたが、多分うまく笑えていない。それでもライハは笑ってくれた。













(良かった、また前みたいにきつい言葉が降ってくるかと思った)


それにしても、なんでこんなところにいるのか?


「ノノハラ」


紫髪の男が心配そうに声をかけた。

ノノハラが早速紹介を始める。


「えっと、アマツっていって、勇者仲間だった。こっちはナナハチ。リューセの迷宮で助けられて、そのまま一緒に行動している」


「ライハ・アマツです。よろしくお願いいたします」


「ナナハチです」


挨拶の握手をしようと手を出すと、男が軽く頭を下げた。そうだホールデンお辞儀するんだった。手を引っ込めて慌てて頭を下げる。

すっかり握手の習慣に染まってしまってたらしい。

一連の流れを見ていたノノハラの頭にハテナが浮かんでいた。


「ところでなんで此処に?」


せっかくだから疑問に思ってた事を質問してみると、ノノハラが一歩踏み出し、深く頭を下げた。


「え?」


なにこれ。


「説明をする前に、まずは謝罪をさせて欲しい。こんな私一人が謝ったところでどうにもならないのはわかっているけど…。あの時、冷たく当たって、見捨てて、本当にごめんなさい。シンゴと馬が合わないのはわかってたけど、私の心が狭くて、貧しかったから、関わるのがめんどくさいと思ってて、あの時もっとしっかり声を掛けられていれば、いや!男だからと差別してなかったら!アマツは誰もいない所で酷い目に合うことなんて無かった!!こんなことで許させるなんて思ってない!!だから!!気が済むまで殴るなり切るなり好きにして良い!!」


「………いいよ、気にしてない。っていうか、アレが無かったらオレは仲間にも友達にも師匠にも、こいつにも会えてなかった。確かに前はムカついたけど、そのお陰で得られたものがたくさんありすぎて、今さらムカつきもしないよ。な、ネコ」


『うん。ライハの言うとーり!』


「だから、謝る必要なんて無いし、それのお陰でノノハラだって成長出来たんじゃないのか?」


「それは……」


そうだけど、という心の声が聞こえた気がした。


「なら、お互い得られたものがあったって事で水に流してさ、今度はちゃんと話し合って、お互い知っていけば良いじゃん」


「…………アマツ」


「ほら、頭上げて」


ノノハラがゆっくり頭を上げた。

相当な覚悟をもっての謝罪をしたのがすぐわかった。

今は顔が赤みを帯びて泣きそうになってるけど、此処で泣かせたらオレが悪くなってしまう。


「此処で会ったのも何かの縁だし、お互い新しい自分になれたってことで」


手を出す。


それを不思議そうな顔で眺めるノノハラ。


「握手だよ。ここじゃあ頭を下げるよりもこっちのが主流なんだ。ほら」


恐る恐るとノノハラが手を握る。

剣ダコがあるが、少し小さい女性の手。


ノノハラの目を見つめる。


「改めて、ノノハラ。ライハ・アマツです。これからよろしく」


そう言って笑えば。


「…、ノノハラ・アイです。よろしくお願いします」


ノノハラもようやく自然な笑顔を浮かべてくれた。





















その夜。


ノノハラ達はキャンプ内を巡回しつつ治療に回っていた。

そしてオレはというと。


「なあ、オレの言い方変じゃなかった?めっちゃ緊張しすぎて途中ナニ言ってるのか分かんなかったんだけど」


『んー?うん。ネコ的には良かったと思ってるよ』


「ほんとにほんと?」


『ホントにホントー』


ノノハラに言ったことがオレ何をベラベラ喋っているんだと今さらながらに恥ずかしくなり、膝を抱えてネコに確認してもらっていたのだった。

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