第363話 フリーダン ~みつける~
『フリーダン、人の臭いが』
「どの方向?」
『あっち』
「タジン 臭い」
リジョラとグロレに案内されて来てみると、木の幹にもたれ掛かり今にも死にそうな茶髪の男性がいた。立派な武器や装飾を身に付けてはいるがあちこちボロボロで、傷もある。しかし、手には一振りの刀だけが無傷のままでしっかりと握られていた。
フリーダンが目を細めた。
男の体を蝕んでいる醜悪な魔力を。男自身の魔力は喰われ過ぎて残りわずか。あと一日遅かったら廃人になっていただろう。
「死 ヅフ 臭いする」
『これは酷いな。探していたのはこいつか』
「そうよ。ギリギリなんとかなりそうで良かったけど、此処まで消耗していたとなると後遺症が残るかも。とにかく解除しなきゃ」
通常の方法では間に合わない。ここはもう精霊の助けもいる。
「近くにいたら巻き込まれる。回復したときの為に食べ物を探してきてもらっても良いかしら?」
「フリーダン 頼み 理解」
『何かあったら呼んでくれ。すぐに来る』
「ありがとう」
リジョラとグロレの背中を見送り、精霊達に呼び掛けて近くにいる精霊達をできるだけ集めてもらった。
フリーダンは刀を見詰めながらしゃがみ、話し掛ける。
「あなたの主人を助けるから結界を解いて。大丈夫、約束を
刀の装飾が揺れ、男を覆っていた張り詰めた気配が緩和した。精霊とは違うものが刀に宿っている。それがずっと男を守っていた。だが、その力も無限ではない。相当無理をしていたのか、緊張を解くと、刀の装飾にヒビが入った。
「あなたも直してあげるから、少しだけ休んでいて」
刀を鞘に戻した、男を地面に横たえた。
フリーダンと男の周りに色とりどりの光が舞っている。呪いに利用された憐れな子も解放してあげないと。
体から春の木漏れ陽に似た暖かな魔力が滲み出てくる。フリーダンの魔力に呼応して精霊達も自然にある純粋な魔力を引き寄せていく。
「それじゃあ、いきましょうか」
体内に潜り込んでいた拘束具が解けて粉になって消えた。青白い顔に生気が戻り弱っていた脈も戻っていく。
数が減った精霊達を労りながらフリーダンは地面に座り込んだ。
何とか自力で回復できるまでには戻したけれど、此処まで耐えていたことに驚いていた。通常此処まで進行するまでに動けなくものだけど、まさか命を削りながらも耐えていたなんて。
「君たちも助けてくれてありがとう。私がもう少し回復したらお礼をするわね」
フワフワと精霊達がフリーダンの髪を揺らしながら空へと散っていった。代わりに呪いに利用された憐れな精霊がフリーダンの前に浮遊しながら弱々しく光を放っていた。灰色の靄。
解放の呪文、シューリカルでフリーダンの元に留まることを選んだ精霊。いや、悪魔か。
なんにしても元の姿がもう無くなってしまっているからどちらかなんて分からない。
「この手は使いたくなかったけど、想像していたよりも体の内側がやられてたから仕方なかった。……でも、出来るならうまく融合してくれれば良いんだけど」
今男の体の中にはフリーダンが引き連れた精霊が入っている。精霊は自然の魔力に意志が生まれたものだ。意志があるので魔力を集める能力が高い。
男の体は半分以上上手く機能しなくなっていたから、生きるための魔力も気力も作り出せなくなっていた。
なので、フリーダンは男の体に精霊を融合させ、回復するまでの間、魔力を集めて貰う事にした。副作用は記憶や性格の混乱だけど、フリーダンの精霊はもう体も役目も無くなっていたから、そこらにいる精霊よりは馴染みやすいと思う。
あとは、男の体が拒絶反応をしなければ良いのだけれど。
『フリーダン。終わったか?』
振り替えると、遠くの岩影からグロレとリジョラが食べ物を抱えてこちらの様子を伺っていた。
「ええ、終わったわ」
『わかった。グロレ、行くぞ』
「テオー タジン 死 ヅフ 臭い 無い」
「何とかね。助かったわ」
「たすかった」
グロレとリジョラが男に近付き臭いを嗅ぐ。
『仲間になるのか?』
「そうね、仲間よ」
「ふーん」
リジョラが灰色の靄を見付け、グロレの前に然り気無く出た。
『そっちは?』
「この子もよ。もう全てを無くしてるから、仲良くして上げて」
『わかった』
グロレがリジョラから前に出て靄を見つめる。
そして、靄に向かって指を差した。
「レン ズキン 君 似る。レン 呼ぶ 名」
グロレが名前を付けた。
精霊は名を持たないのが普通なのだが、精霊を見ると嬉しそうな気配がした。
「
形を変えながら精霊はグロレの周りを回る。そしてフリーダンの元へと戻ってきた。
心なしか精霊の色が青みを帯びていた。
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