第362話 フリーダン ~山の守人~
熱が下がり、ようやく赤髪の少女が目を覚ました。緑色の瞳がまだ潤んでいるが、顔色はだいぶよくなっている。そこで、ようやく見知らぬ人がいることに驚き逃げようとしたが、それよりも前にフリーダンのひんやりと冷たい手が少女の額に触れた。
思ったよりも気持ちが良くて、少女は思わず目を瞑った。
「うん。熱は下がったわね」
手が離れていく。
「ラブ ズカーン?」
「私はフリーダン。貴女達にお手伝いをしてもらいたくて助けに来た魔法使いよ」
大きな犬のリジョラは、少女、グロレを乗せて歩いていく。
「リジョラってのは名前?」
『本当はレトと名があったが、グロレがリジョラと呼ぶからリジョラに変えた。意味は分からない』
動物は名前が増えていく。どんな風に呼ばれても、それが己ならば、名前になる。
「ふふ。竜の言葉で犬って意味よ」
『そのままか。というか、グロレの言葉が分かるのか』
「ええ、あなたは?」
『感情は分かるが、何を言っているのかはわからん。グロレの名前を聞き出すのにも時間が掛かった』
「そう。どうせなら教えてあげれば?」
『教えているんだが、お互いに言葉が通じないから難しくてな。最近は双方一方的に話してる。な、グロレ』
「セラ ギズン チビ ケフ ダバン ギィキーン。ギージャラ ガラ」
『ああ、そうだな。分かってくれるか』
二人の様子を微笑ましくフリーダンは眺める。言葉は通じなくても、心は通じているみたいね。
『ところで、手伝いとは何だ?出来ることは少ないぞ』
「むん」
「あの山を三つ越えた辺りに一人、とある国から逃げてきた人がいてね、私の上司が気にかけてたから」
『ふーん。助けるのか』
「ええ。それに知り合いの友達みたいだったから」
黒髪の、小さい悪魔を連れた青年。
悪魔といっても向こうのと違って此の地の悪魔は負の力が強い精霊の一種だけど、それとも違うなんだか懐かしい気配を感じた。青年の方も良い気配だった。
後から勇者の役目に就いたと聞いて嬉しくなった。やっぱり遣えるなら優しい子に遣えたいもの。
「フリーダン ヴェドロ ペイー タグ」
「うん、だから次こそしっかり守りたいからね」
『私も会話に参加したいのだが』
「あら、ごめんなさい。やっぱり言葉を教えた方が良いかもしれないわ。その方がきっと楽しくなるわね」
三人は進む。赤や黄色に青と鮮やかに染まる風景を見下ろしながら。
「やぁやぁ、神の子久しいやぁ」
「次は西へ行くんだ?」
「後ろの小さいのと大きいのは遣いかや?」
「こんにちは守人さん」
リトービット達が山籠りの準備をしている。
山を下るリトービットの荷物の中に何故か大量のシシタマネギがあった。何に使うのか分からないが、リトービットはこの時期無意味なことをしないからきっと必要な物なのだろう。
「いいえ、ちょっとお手伝いをしてもらおうと思って」
「ほーう。なるほど。んじゃ西の守人に会ったらよろしく伝えてくれや」
「わかったわ。今年も山をよろしくね」
「いわれなくともさぁ」
リトービットはリューセ山脈を守る種族だ。小さいながらも素早く賢い。山を下りたときに人間に狩られることもあるが、基本はこうして山に隠れ住んでいる。
更に山を越え、冷えてきた。
グロレには持っていた防寒着を着せているが、彼女は元々南のアギラ島出身だ。寒さに弱く震える。フリーダンは精霊にお願いして温かい風を送ってやる。それだけでも楽なのかホッと息を吐いた。
「風 良い 熱」
「温かいでしょう?」
「うん。あたたかい」
『だいぶ言葉を覚えてきたな』
「リジョラ あたたかい」
『グロレもあたたかいぞ』
「んふふふー。ギィドロ!」
リジョラに頬擦りをするグロレ。首や手首の痣も薄くなってきて、張り詰めた雰囲気も和らいで来ていた。そして言葉が通じるようになって、ようやく彼女の過去を聞くことができた。よくある人拐いに捕まったアシュレイの話だ。
しかしグロレは締め括りに決まって脱出したときの話をする。アシュレイを仲間にもつ人間の話だ。あまりにも特徴が似てたからもしかしてと思ったけど。まさかね。
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