第293話 山脈越え.6

カツキ曰く、ここはもうプローセルン人の縄張りらしい。世界地図を見て、山脈に被さるようにプローセルンの国名があるから、山脈の中に住めるような土地があって、そこに国があるのかと思ったら、ここの山脈全体が国の一つなんだと。元々はどちらもドルイプチェ国だったんだが、第二次人魔大戦時に得意戦力が分かれ、そのまま国にまでなってしまった不思議国家である。


リトービットの住処の洞窟に戻り、荷物の修理をする。やはり雪で揉みくちゃにされてしまったので、肩紐の部分がやられていた。


ネコはまだ目が覚めない。

カツキが、オレを掘り出すときに体に守るように巻き付いていた謎の帯があって、それが少しずつ変化してネコに戻ったのだと聞かされた。


寒さに弱いのに、申し訳ない。


次からはネコにも暖める魔方陣を貼ってやろう。


「ところで、手伝いってのは?」


「ああ、それはな、……見た方がはえーな、付いてきてくれ」


よっこらせと立ち上がると、近くにいたリトービットの仲間に下に行ってくると伝え、ランタンを持って、廊下にあるとあるドアの前に立った。


「オメ、魔物倒したことある?」


「はい、一応それで食べてます」


「んじゃ、すぐに意味がわかるだろう」


ランタンに灯りをともして、ドアを開けると、そこは階段になっていた。暗闇の中に続く階段からは冷たい風が吹いてきていて、ブルリと体が震える。

それはきっとあの夢で見た、そこにうごめく黒い影を思い出すからだろう。


「行くぞ、気を付けろよ」


階段を跳ねるように降りていく。元々リトービットは、まるでスキップをするように歩く。


その為、階段なんか二段目跳びで降りていくので早い早い。こんなところで置いていかれたら堪らないので、オレも階段を駆け降りて行くしかない。


足を滑らせたら終わりだ、気を付けないと。


「着いたぞ。ここの向こうだ」


辿り着いたのは、鉄のドア。それはこのリトービットには相応しくない武骨な物だった。ドアには覗き窓があるが、覗き窓には鍵が掛けられており、中から何やらカリカリと鋭利なものが引っ掻く音がする。


「……なんか変な音がするんですけど」


「そ!オラたちの部屋の一つが魔物によって占拠されてしまってな。覗いてみるか?」


廊下の隅に置いてあった脚立を持ってきて、カツキが上って覗き窓の鍵を開ける。


「覗いていみな、ゆっくりだぞ」


ほれほれと促され、覗き窓から中を見て、オレはゆっくり蓋を閉めた。


でっかい虫がいっぱい。

見た目スズメバチだったけど、あんなでかいスズメバチ嫌だ。


「なんで?」


「さぁ?部屋に亀裂があるなーと思ったら出てきた。お陰で酒蔵を一つ失っちまった」


また亀裂おまえか。


「お手伝いって言うのは、まさか」


「アレを駆除してくれ。そうしたらドルイプチェまで運んでやるよ!」


にこりと素晴らしい笑顔を見せられ、オレもつられて笑ったが、頭のなかではどうやってあいつを駆除しようかと頭をフル回転させているのだった。

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