第291話 山脈越え.4

氷になっている夢を見た。とても寒いところで横になってると、突然つまみ上げられ、コップの中に入れられ、温かい水が注がれる。温かい水は容赦なく体を溶かして消していく。


手も足も頭も全部。


そして全てが溶けて消えた。







「はっ!!!」


目を開けると薄暗い岩の天井があって、体が動かない事を思い出した。慌てて起き上がろうとして、途中下から引っ張られて元の体制に引き戻された。その瞬間、目の前に大量の滴が飛んだ。


え、水?


それにしては湯気が。お湯?

なんで?オレ雪崩に巻き込まれ……助けられたのか。


黒い影達に後できちんとお礼を言わないと。


「……でもなんで動けないんだ?」


感覚がまだ少し鈍いので、自分の体を見下ろしてみると、素っ裸で縄で固定されてお湯に入れられていた。


「うわああああああああああ!!!!!なんでええええええ!!!?」


服どこ行った!!!?


慌てて探すと、オレの右隣で猫が同じように縄の籠の中で湯に浸かっていた。

そこで、ようやく落ち着きを取り戻し始めていると、後ろで勢いよく扉が開く音がした。


「よぉー、起きたな。良かった良かった」


ペタペタと素足で床を歩く音がして、振り向こうとしたが、首も固定されていて振り向くほどには動かせない。足音が頭のすぐ止まり、体を固定していた縄が緩んだ。


一瞬沈み掛けたか体制を立て直した。


「んにぃー、体の具合はどうだ?ちゃんと動かせられるか?」


試しに手を握ったり開いたりしてみたが、問題は無さそうだ。


「はい、大丈夫みたいです。本当に助けていただきありがとうございまーー、!!」


振り返り、お礼を言い掛けて、固まった。


五歳ほどの容姿で、長い髪を緩く纏め、頭からは長いウサギの耳が。

子兎獣人リトービット


「ーーした」


「なんで一瞬固まった?」


「初めて会ったリトービットさんに良い思い出が無かったので、すみません」


「ああー、ならしょーがね。耳でも隠しとくか?」


小さな手で耳を隠そうとしている。


「大丈夫です大丈夫です!オレの問題なので!」


「そー?なら遠慮なく」


手が離され、長い耳はビヨヨヨンと揺れながら再び立った。それにしても、このリトービットは男なのか女なのか分からない。あまりにも中性的な顔過ぎて判断できないのだ。髪は長いが、ここの人たちは男でも髪が長くて一纏めにする人が多くいる。例えばアウソもだが、オレもそろそろ纏めないとうざったい。


「えーと、リトービットさん」


「カツキさ言う」


「ライハです。カツキさんオレの服は何処でしょう?」


「今乾かしてるから、乾くまで浸かっとけ。手ぇ出してみろ」


言われるままに手を出すと、手を握りカツキは顔をしかめた。カツキの手が物凄く熱い。


「まだ冷たいから、そこにいろ。飲みもんだけ持ってくるな」


そこまで言うと、カツキは立ち上がり、再び扉の向こうへと行ってしまった。

まだ冷たいのか。


あきらめて首までお湯に浸かると、手を握り開く。少し動きにくい感じはあるけども、気にするほどでは無い気がしたが。まぁ、せっかく温かいお風呂に入れたんだ。ゆっくりさせてもらおう。


まだ寝ているネコを見ると、気持ち良さそうに寝ていた。良かった無事で。


「しかし、まさか雪崩に飲まれるなんて、よく生きてたな」


そこで、思い出した。


灰馬、生きてるか!?


「カツキさーん!!カツキさーん!!」


懸命にドアに向かって呼び掛けていると、しばらくしてカツキが戻ってきた。手には湯気の立ったコップ。


「どした?」


「オレの駿馬知りませんか!?一緒に雪崩に呑まれたんですけど!!」


ドア近くの机にコップを置き、カツキが「ああ」と言いながらこちらを見た。


「後でお礼言っとけ、あいつが半分助けたんだからな」


「へ、灰馬が?」


「そ、必死に雪掘り起こして声張ってたからオラたちも気付いたんだ。偉かったぞ」


「そう、なのか」


良かった。生きてたか。

まさか、灰馬単騎であの雪崩から脱出したのか。スゲーなあいつ。さすが灰馬だ。


「だから心配せずに自分の事に集中しろ。ここに湯さ置いておいたから、ちゃんと飲んどけよ」


また来ると言ってカツキは行ってしまった。だけど、二匹の無事を確認できたことで、オレはゆっくりと温まることができたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る