第272話 山之都.3

「あら、お出掛け?」


家から出ると、果実が入った籠を手に奥さんが戻ってきていた。


「ああ、ちょっと亀裂まで」


「あそこはまだ残党がいるから、充分に気を付けてくださいね」


「わかった、行ってくる」


「行ってらっしゃい」


新婚夫婦では無いらしいが。

仲が良いのは、良いことだ。


カランコロンと天狗らしい一本歯下駄の音が鳴る。


「助けてくれた奴等というのは?」


目的地へ向かう途中、カリアがクウカクへと質問をした。確かに気になる。


「ああ、面白い連中だったぞ。騒がしい奴等で、魔術師が二人と、剣士が二人、武道家が一人、あと綺麗な女性と、なんか凄い武器持った戦士が一人いたよ。凄かったぞ、人間ばかりだったが国籍バラバラのが集まって、常に騒がしかった」


「そんなにいたの。相当大きなパーティーなのね」


「な、基本はだいたい3から5人くらいなのに」


「しかも指揮を執ってたのが子供だったからなおさら驚きだった。でも良い奴等だったぞ、医者を呼んでくれたのも彼らだったしな」


アウソがハッとした顔。どうした。


「もしかしてあの医者って、呼ばれた人だったのか…」


「あー、あの勘違いお嬢様のね。道理で道具が充実していると思ったわ。運が良かったのね」


バリアを張る魔物の近くの村を通り掛かった医者。何だかんだであのマニラお嬢様はなかなかな強運の持ち主なようだ。


それにしても亀裂をなんとかできるパーティーか。すごく気になるな。もしかしてその人たちも神の関係者とかなのか?


(もしくはーー)


カリアを見る。


二代目勇者の関係者とか。


『……ネコは退屈である』


「歩くか?」


『いやー』


全くこのネコは。


「使い魔を見たのは数回だが、種類によっては話すのだな」


「なんかお喋りなんですよね」


あらかじめネコをオレの使い魔として紹介したので、ここではネコも自由に話せる。そもそも天狗は鳥の言葉が分かるから動物が話すということに違和感を持たない。


「ここを下りて、すぐだ」


クウカクが地面へ伸びる梯子を指差した。

作りは竹だ。なんでここだけ急あしらえ状態なのか疑問だったが、ちゃんと柱に固定されてるので、ジュノの蔦を下りるのよりはマシだ。


「俺、高所恐怖症じゃなくて良かった」


「ああ、オレもだ」


下を見て足裏が痒くなる。なんか凄い階段を登るなと思ってたんだが、こんなに高いところにいたとは思ってなかった。梯子を下りるのも下を見ないようにしないと。


「先に下りるぞ」


しかしクウカクはそんなの関係ない。翼を広げて飛び降りた。こういうとき飛べたら良いなと本気で思う。


だいぶ時間を掛けて下り、少し行くと茂みの中から白い魔力の光が立ち上っていた。


「ここに大きな亀裂があったんだが、魔術師の一人が綴じてくれたんだ」


亀裂があったであろう箇所には、白い糸状の縫い付けたような痕跡があり、白い魔力の光はその糸から発生していた。


「この綴じ方は…」


カリアの魔方陣とは別のもの。これは神、初代勇者が良く使った綴じ方を改良したものだった。まさかの初代の関係者?

だとしたらどれだけ昔からこの技術を継承してきたんだと感心した。


「この糸は、亀裂が完全に塞がって、大地が元に戻ると消滅するそうだ。凄いよな、そんな技術があるなんて。しかもいかにも魔術師って感じのギリス人じゃなくて、コーワ人の魔術師がやったんだから」


「………………ん?」


ギリス人、コーワ人?


「あの、クウカクさんに質問なんですけど」


「なんだ?」


「そのギリス人の魔術師なんですが、頭緑で眼が黄色でこれくらいの変な小動物連れてて、杖持ってて、名前がニックとかそんな名前じゃありませんでしたか?」


目をぱちくりとさせるクウカク。


「え、そうだが。知り合いだったのか?」


マジでニックだった。

まさかこんなところで名前を聞くとは。


「ええ、まぁ、オレに魔方陣の解除を教えてくれた人です」


「そうか、そうなのか。…………ああ!!!そうだ思い出した!!!」


突然の大声に驚く。


「ここに黒猫連れた頭真っ黒の変な奴が来たら渡せって言われてたのがあったんだった!!」


変な奴が来たらって。

ニックのオレの認識に軽いショックを受けてると、クウカクが上着のポケットから折り畳まれた紙を取り出した。


「恐らくここに来るからって言われて、持ってたんだよ。はい」


「どうも」


手渡された紙にはネコのマークとピートンのマーク。

折り畳まれた紙を開くと、それは手紙だった。


その手紙の始めにはこう書かれていた。






ーーお前の魔法、蛇倒すのこの山から見てたが、面白い方法に進化させてんな(笑)

まじ笑ったわ(笑)







「………………」


オレが、うるせえ笑うな。と思ったのは仕方ないと言えよう。

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