第245話 さらば、エルトゥフの森

「それでは、お世話になりました」


「いいえ、こちらこそ。あなた方が居なかったらどうなってたことか」


今回は本当にどちらの協力も無くてはならなかった。どちらか一方が居なくても大惨事になっていただろう。


「疑って、すまなかった」


そして、オレもクアブから謝罪をもらった。いまオレに気を掛けている場合じゃないだろうに、律儀な人だ。なんでも、あの洪水の時に運悪く足を滑らせて波に呑まれたのを、イヴァンがカナヅチなのに飛び込んで助けようとしてくれて、グルエルさんが一目惚れ。現在二人とも離れようとしないらしくクアブは気が気じゃないらしい。

もちろんオレ達も謝った。原因なので。

でも、奇しくもあれが愛のキューピッドになったので、逆に礼をされた。


これが吊り橋効果ってやつなのか。


「ああ、そうだ。魔族の子」


「ライハです」


「君はもう少しその気配を隠す練習をした方がいい。そんなんだと普通の人間ならともかく、魔法に精通しているもの。気配察知が鋭いものに目をつけられやすい。おそらく動物も余程の度胸の持ち主じゃない限り寄っては来ないだろう。もう少し気配を隠せば、動物も精霊も寄ってきやすいだろう」


「気配を隠せば動物が寄ってくるんですね!モフモフできるんですね!」


「顔怖いさ」


真剣な顔で言えば隣でアウソがそう言うが、オレにとっては怖い顔になっても良いくらいの有益な情報だった。


なるほど!

道理でやたら動物に嫌われると思ったら、気配を怖がって逃げてたのか。よし!よし!


フードからネコが顔を出す。


『ネコは?』


「お前は例外だろ」


「あとは、そうだな。動物は静電気を嫌うから、必要の無い時は消せば、もっと来るんじゃないか?君は何故かずっと体表に薄い静電気の膜を張ってるから、動物にとっては凄く怖い」


「それは知らなかった」


最近戦闘続きで、咄嗟に対応出来るように気が立ってたかもしれない。なるほど。言われてみれば確かにここんところ、スマホ持つと自動的に充電モードになってて不思議だった。


これからは、頑張って気配を隠す練習をしよう。


「クアブさん、ありがとうございました。これ、その礼と言ってはなんですが」


小袋を手渡した。クアブは中身を見てオレと袋を三度身ほどした。中身は魔結晶と、ダイアモンドの結晶だ。昨日精霊が集めてくれたもので、アウソが分別しながら驚いていた。

多分、リューシュの前のマグマの化け物が放ってきたキラキラの石を集めたんだと思う。

ナマコモドキを買うとき金を容赦なく使ったので、オレなりの謝礼でもある。


ちゃんとカリアにも半分後で渡すつもりだ。


「ライハさん!アウソさん!またいつか来てくださいね!!今度はちゃんとおもてなしをしますので!!」


と、小さいウンディーネと精霊達に纏われつかれながら、半泣きでやって来た。


「クユーシーも元気で、次合うときはお土産たくさん持ってくるよ」


『ネコももっと、もーっと凄くなってるから!なんか、分裂とか出来るようになってるから!』


「あはは、楽しみにしてます」


「じゃあ俺はこれを使いこなせるようになって、ウンディーネや他の精霊と遊べよう様にしておくさ」


そう言って、槍に飾り付けた水神の宝玉を揺らした。


「はい!」


ウンディーネがアウソに向かって手を振る。

水の縁、か。羨ましい。


「レディー・キリコ!!俺は貴女にとんでもない失礼な事をたくさんしてしまいまして本当になんとお詫びすればいいか……」


「いいわよ、そんなこと。それよりも、グルエルさんを大切にしてあげなさい。…あ!じゃあこうするわ。次来たときにもっともっとグルエルが幸せそうなら許してあげるわ」


キリコの言葉に顔を真っ赤にするイヴァンは、背筋を伸ばし声高らかに宣言した。


「…そ、それは勿論です!!!グルエルさんを世界一幸せにしますとも!!!」


「イヴァンさん…ッ」


その後ろでクアブが「父は認めとらんぞ!!」と言っていたが、長老がまぁまぁと宥めていた。


「アンドレイ店長、ありがとうございました」


「なーに!こっちも敵討ちが出来て清々してる。こっちこそ礼を言う。ありがとうな!」


「スライム研究員達はこれからどうするんですか?」


「新しい研究素材も見付かったからな!しばらくは街を行き来して復興を手伝うさ。また近くに寄ったら訊ねてくれ。あと、カリアさんに良いものを渡してある。是非使ってくれ!」


「?、ありがとうございます」


餌をたくさん食べて、旅支度の整った灰馬に跨がり手綱を握る。


振り替えると、たくさんのエルトゥフ達や精霊達が見送りしてくれていた。


「さぁ!行くよ!」


カリアの号令で朝日の中、駿馬を走らせた。

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