第222話 休養中.6

「こ…これがたくさん、いたんですか…」


チラチラとゴキブリを見るクユーシー。

ゴキブリに似ているが、水からあげると色々と違うところもあった。まず、額にタイワンカブトに似た小さな角が二つ生え、後ろ足がオールのようになって泳ぎやすくなっていた。羽もゴキブリというよりもカナブンやカブトムシに近く、色も黒い中に赤や青のの筋模様がある。


「見たことは?」


「ないですね」


「じゃあこれは?」


と、アウソが黒いのがへばりついた石を見せる。お前それ持ってきたのかよ。


「いえ、ないです。それにしてもなんだか変な臭いがしますね」


クユーシーが鼻を摘まむ。


「確かに。水の中じゃ臭いは分からんからな」


「あれ?ちょっと待って、オレこれ嗅いだことあるぞ」


石に近付いて嗅いでみると、昔に嗅いだことがあるような、悪臭ではあるのだが、なんだっけ、これ。


頭の中にモヤモヤと記憶が蘇りそうで甦らない。なんだっけ?確か田舎のじーちゃん家に行ったときにめっちゃ嗅いだことがある。


「あ、ガソリンだ」


日本にいたときは基本電車移動ばかりでガソリンとはあまり縁がなかったが、農家のじーちゃん家には古い運搬機があってよく乗せて貰っていた。そのとき嗅いでいた臭いだった。


「ガソリン?」


「なんだそれ」


二人して首を捻る様子からすると、ガソリンという言葉は無いらしい。


「火とか大きくする油なんだけど」


「…灯油?」


「うーん、近い、けど豆油(大豆を絞って作る油)じゃなくて。海の小さい動物の死骸とか、沼に嵌まった動物の死骸が溶けて油になったやつ」


「ないね」


「うん。基本埋葬されない動物は土に還るかスライムに食べられるし」


「待って、スライム死骸食べるの?」


「食べる種類のもいる」


スライムはいる地域によって食べる物が違うとは知ってるけど、死骸食べるやつもいるなんて知らなかった。基本草食べるのとか、花食べるのとかが一般的だからな。虫みたいなやつらだ。


「とりあえずあのゴキブリモドキを長老やカリアさんに見せないとーーっておい!ネコ!!」


『!!』


なんだか静かだと思ってたらゴキブリモドキにこっそり近付いてつつこうとしている最中だった。危ない!


アウソが慌てて槍をゴキブリモドキごと回収。オレはネコを回収した。


「次やったら肉減らすぞ」


『ごめん』


ひとまず、ウンディーネにすぐに戻るからと言い残し、オレ達は長老家に向かった。

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