第199話 エルトゥフの森での攻防.6
触った感じ、表面はとても滑らかで、指先で叩いてみると頭蓋骨に響く感じがした。
間違いなく生えてる。
(ネコ、ちょっと良い?)
心話でネコに話し掛けた。
ーー『なに?』
ネコとの距離があるせいか、電話越しに話しているような感覚がした。
(オレになんかした?)
ーー『何を?てかさ、ライハこそ何したの?あんだけボコボコにされてたのに急に怪我が流れてこなくなったんだけど。てかむしろこっちに魔力送ってきて大丈夫なの?』
逆に心配されてしまった。
なるほど、今オレは自力で怪我の治癒をしてる上にネコに魔力を送る余裕すらあるらしい。
(おーけー、分かった。今んところは問題ない。何かあったらまた連絡する)
ーー『分かったよー』
心話を切る。
どうやらこの角の原因はオレらしい。
今までの意味不明な現象を踏まえ考えて、恐らくオレの中の悪魔の融合が命の危機で強まったとかそんなんだろう。
「オレどんどん人間じゃなくなってきてるわ」
悪魔を否定できなくなってきている。
笑うしかないよね、これ。
「なんか知らんけど自己嫌悪は後よ」
「はい」
それでも変わらず接してくれるカリアさん素敵です。
まぁ、そんな事考えている余裕があったら敵に集中しろって事なんだろうが。
『ギャオオオオオオーーーー!!!!!』
「!?」
リュニーの悲鳴で後ろを振り替えると、なんとウンディーネ本体にリュニーが取り込まれていた。キリコとアウソのいる地面は火の海状態で、二人とも息を乱している。
そしてリュニーだが、ウンディーネの中でも諦めずに炎の塊を吐き出しウンディーネを蒸発させようとしているが、ボコボコと激しく沸騰し表情を歪めても決してウンディーネはリュニーを離そうとしない。
そんなウンディーネがこちらを向いてチハが突っ込んでいった森を指差した。
そちらに顔を向けると、森が凍っていた。
木に霜が付き、冷気が流れてくる。
何が起こったのか分からないが、確実に分かったことがある。森から黒い魔力が立ち上っていて、それが魔法によるものだと理解できた。
『クス、クスクスクス…、あははははは!!あんた達本当に面白いね!!』
可笑しすぎて堪らないと言うように肩を震わせながらチハが戻ってきた。顔の半分はまだ崩れており、そこを手で押さえているが明らかに先程よりも顔の造りが変わっていた。
まず角が増え、頬周りにもゴツゴツとした突起のような物が突き出していた。目も増えて、六つの目がアンバランスに顔に出来上がっていた。
鋭い牙は長く鎌のように伸び、左右バラバラで動いている。
腹の方にあった牙も蝿取り草を刃物で作られている感じに変わっていて、そこから滴る液体が地面に落ちると、みるみるうちに草を凍らせた。
あれ、毒じゃなかったんだ。
ドライアイスみたいなやつだったんだ。
昔、ドライアイスを素手で取ろうとしてえらいことになった記憶が甦る。
『でも、チハも命令されてるからね、そろそろ本気でいかせてもらうよ』
チハの姿がぶれ、消えた。
「後ろ!!」
振り替えると、チハの牙を剣で受け止めてようとしているカリアがいて、しかしその勢いを受け止めきれなかったのか、カリアが大きく吹っ飛ばされた。
カリアが飛ばされるとか、どんな力だ!?
『おい!!チハとお前、どっちが再生力あるか勝負しようぜ!!』
チハの氷の刃を纏った腕が振り下ろされる。
先程よりも早い速度で繰り出される攻撃になんとか着いていくが、正直瞬き一つしようものなら終わってしまう程余裕がない。
ジリジリ押されつつ、ここで負けては皆死ぬ、と、ようやくオレの心に火が着き始めた。
長く、深く息を吐き出し集中力を上げ、大きく吸った瞬間に身体能力を向上。
身を捻りながら空中で回転させた体のすぐ下をチハの氷の刃が通過した。
その間、オレは黒刀を両手で握り、体の捻りを最大限利用するとチハの肩から腹にかけて全力で振り抜いた。
散らばる土塊と氷の粒が研ぎ澄ました集中力によって遅くなった視界の中を舞う。
しかし、これでは奴はまた再生する。
その証拠に、バラバラになった場所がもう半分ほど再生仕掛けていた。
『ひゃはっ!』
「いっ!?」
着地する寸前、蜘蛛の下半身が全ての脚を全開で飛び掛かってきて、反応に遅れたオレはその脚に捕らえられてしまった。
脚の先端の鋭い爪が体に深く突き刺さる。
しかも黒刀を振り抜いた状態で捕まってしまい、完全に動けない。
『捕まえたァ!』
顔が無いのに楽しそうな声。
腹の蝿取り草に似た牙が大きく開き、肩から腹にかけて咬み付かれる。
「があぁあっ!!!」
牙から冷たいものが流れ込んでくる。
不味いと思ったが、どんなにもがいても動けず、逆に爪や牙が更に食い込んでいく。
咬まれた所から血液が凍っていくのが分かった。
実際流れ出た血が凍り付き、シャーベット状になっている。
このままじゃ死ぬ!!!
全力で魔力をかき集め、それを全て雷に変換して放出した。視界が白く染まるまで放出するが、チハには利きが甘いのか更に食い込みが強くなってきた。口から血が溢れ出す。
その時、カリアが現れた。
「ちょっと痛いけど、耐えるよ!!」
「!」
目の前に白い筋が縦に走ったと思ったら、体に掛かっていた圧が半減した。
抜けられる!!
『ぎゃああああーーっっ!!!』
チハが珍しく悲鳴を上げたがオレはそれを無視。
「ふんっ!!」
ブチブチと嫌な音を立てて体から牙や爪を無理矢理引き抜いて、すぐさまチハから距離をとった。
「はぁ、はぁーっ、いってぇ…」
息が白い。
咬まれていた右肩から脇腹にかけて薄く氷が張り、動かすとパラパラと崩れた。
未だに突き刺さったままの牙や爪付きの脚を引っこ抜いていく。
「ありがとうございます。カリアさん」
「こっちこそ助けるの遅くなってすまんよ。剣が凍りついてて…、地面から引っこ抜くのに時間が掛かった」
見てみると剣が白くなっていて、更にカリアが飛ばされた方向を見ると氷と化していた地面に大きなヒビと穴が開いていた。
どんな勢いでぶっ刺さったんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます