第194話 エルトゥフの森での攻防.1

各々武器や装備を確認。

キリコは前の短剣をレエーの腕に突き刺さったまま持っていかれてしまったので、新調した短剣を念入りに点検。

オレは使い慣れた短剣に、腰に黒刀をぶら下げ、ネコとの魔力融合の確認。

アウソは槍に何か細工を施し、カリアは剣とエルトゥフに頼んで石の投げナイフを幾つか譲ってもらった。


「クユーシー、ちょっといいかな」


「なんですか?」


その際、ネコが万が一の子とがあったら連絡を取れるように、と言うことで。


『ネコ、実は喋れる』


クユーシーにバラす事にした。


初めは驚いたクユーシーだったが、精霊との会話ができる為かそういうものだと納得し、すんなり受け入れてくれた。

それでもクアブに見付かると何かと言われるかもしれないので、何かあるときまでは内緒にすることにした。


「何かあったらギリスの使い魔と同じものですと言っておきますよ」


クユーシーがネコを撫でながら言った。


その手があったか。










「じゃ、行ってくる」


『お前ら気を付けてな』


尻尾を振ってネコが見送り、その横でクユーシーが頑張ってください!と応援してくれた。


定期的にクユーシーに連絡を取りつつ、精霊達に伝える。


今は協力してくれるのはウンディーネだけだが、状況次第では他の精霊にも頼み込んで動いて貰うとの事。


隣で浮遊している拳サイズの水の塊が、小さな波を立てながら付いてくる。


これはウンディーネの一部で、何かあるとすぐさま周りの水分を吸収して巨大化したり、この水の塊目掛けてウンディーネの本体がやって来るらしい。


今まで蛍のような精霊しか見たこと無いから、この水の塊が精霊と言われてもまだしっくり来ないが、話し掛けると体を震わせて返事をくれるので意志がちゃんとあるのは分かった。


大規模戦闘が行われている場所を回り込むようにしてオレ達は進む。

視界はほぼ良く繁った草木しかないが、それでも全身の感覚を使って辺りを警戒しながら進んで行った。


「どう?何か見える?」


「まだです。キリコさんは?」


「こっちもまだ。でも、あの洞窟のように嫌な気配はするわ」


特攻役のオレとキリコは魔力探知に優れている。

オレは目、キリコは鼻。


どちらも遠近戦ができ、つ、見世物にされていると言う経験者。の癖にあまり組んで戦ったことがないので少し不思議な感じだが、その割りにはやり易い気がする。


何でだろうな。


「キリコさん」


「ええ、近いわね」


ザワリと前方から嫌な気配を感じとる。

目を粒子モードに変えると、遠くの方に人影らしきものがある。


しかし、その人影にも異形な所がある。

湾曲した羊のような角に、腰から下は動物の脚であった。

体格のいいその人影は、クルリとこちらを向いた。


「グヒッ、気付いているぞ!人間どもめ!それで隠れたつもりか!?」


風船のように丸い体を弾ませながら、こちらへと棒のような物を突き出した。


次の瞬間。


「!!」


前方の木々を吹っ飛ばしながら光の矢が飛び出してきた。


狙いはキリコ。


殆ど条件反射で雷の矢を、その光の矢に向かって射った。

条件反射で射った為か狙いが僅かに逸れ、光の矢と雷の矢が微妙な感覚を開けて擦れ違うように交差した。


光の矢の形と雷の矢の形が崩れて、雷の矢と一つの雷になって近くの木に衝突して穴を開けた。


形が崩れる瞬間、光の矢が雷のようになったのをオレは見逃さなかった。


「ヒッヒッ、まさかこの俺様の電撃を相殺させるとはな。人間にしてはやるな、褒めてやろう」


破壊された前方の木々の間から悪魔が姿を現した。見た目は山羊の後ろ足と角を持った豚鬼オークだ。

目の回りに青で隈取りをしており、手には捻れたイカに似た装飾の杖を持っている。


その杖からバチバチと電気がはぜていた。


「人間ども、このイカヅチのグラドを楽しませて見せてみろ!」


その姿を見てアウソが一言。


「誰だ、悪魔は炎を使うって言ったの」


だった。

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