第192話 精霊の悪戯

夜は深まり、エルトゥフの森は夜の精霊達の遊び場になる。

その森にあるのはエルトゥフの村だ。


今日はその村に外から来たアールヴが来ている。


精霊達は気儘に飛び回りながら、今話題の人間を見に行った。











部屋の中一杯に蛍に似た精霊が飛び交っている。

もうね、集まりすぎてウザいくらい。

信じられるか?

オレの周りだけ昼間並みに明るいのよ。


「も、ほんと寝てるんで勘弁してください…」


精霊達に謝りながら、オレは掛け布団を頭の上まで被って寝た。











翌日。

オレは鏡の前で項垂れた。


誰だ。オレの頭に花飾りを付けていったの。

いや、犯人はだいたい知ってるけど。


大分長くなりそろそろ一つ結びにしようかと思っていた髪の毛に丁寧に飾り付けられた可愛らしい花。それがたくさん。


「こういうのはね、女の子にしなさい。男にするものではないです」


そう独り言のように、恐らく近くにいるであろう犯人に聞こえるように言いながら、オレは髪の花飾りを一つずつ取って、水を入れたコップに挿しておいた。


それを机の上に置く。


良かった。

あの姿を見つかる前に起きられて。


「ライハさん、精霊に花を贈られたんですか?」


なのに、朝やって来たクユーシーにバレていた。

なんで?


「なに?そんな面白いことになっていたの?」


キリコがにやつきながら言う。


「…結構な量つけられてましたよ。あ、そのコップに挿しておいた花で……、増えてる」


コップの花が増えていた。


あれだよ、精霊って音も臭いもないから悪戯されても気付かないね。


次々と身支度を整え長老の元へ。

朝食に招かれたのだ。


昨日とは違う部屋へ案内され、客も一緒に食事ができる用の席がある所へと着いた。

そこには既に長老とクアブが居り、食事も並べられていた。

パンと卵に色鮮やかな野菜に花に果実。

肉の代わりに大豆を潰し固めて焼いたものがある。


「おはようございます」


「おはよう。昨日はよく眠れたかね?」


「はい。お陰さまで」


カリアが先に挨拶を交わして席に着く。

そしてオレ達も順に挨拶を交わした。


「さて、昨日お主らが言っていたことだが。世界の裂け目がどうとか?」


「はい。今日はその場所の確認のために、悪魔と争っている地を観察したいと思っております」


「世界の裂け目…か。懐かしいの。そうか、だからこんなにも魔物が涌いて出たのか」


エルトゥフの寿命は長い。それこそ純粋な巨人や竜の本来の寿命と並ぶ程だ。それでもこの世界には更に長生きなのはいるのだが、それはまた別の時に。


長老は今年886歳になる。


クアブは675歳。

でも一番驚いたのはクユーシーが177歳だったことか。


「そういう事か。やはり歳だな、こんな簡単な事にも気付けぬとは」


「長老、そんなことはありませんぞ!」


クアブが長老にフォローをするが、長老は緩く頭を振った。


「人間はたった70で生涯を終えるものだが、その分、我々よりも頭を使い短い時間を全力で生きておる。そこは学ばねばな」


「長老様、ボクが案内してもよろしいでしょうか?」


クユーシーが言う。


その申し出に長老は頷いた。


「クユーシーを含め、アールヴが二人いれば、何かあったときはすぐさま精霊が守ってくれるだろう」


「ありがとうございます」


「それはそうと…」


長老がこちらを見た。

また気配が悪魔関係の話かと思ったら、長老の目はどこか微笑ましいものを見るかの目をしている。

クアブはこちらを向いてぎょっと驚いていた。


「お主はずいぶん精霊達に好かれとるの」


「?」


隣から笑うのを耐えるような声が聞こえて横を向くと、アウソが唖然とし、キリコが笑いそうになるのを耐えており、カリアも温かい眼差しを向けていた。


『ライハ、頭触ってみろ』


ネコが念話で話し掛けてきた。


(頭?)


何だろうと手を伸ばすと、指先に何かが触れる。何だろうと一つ摘まんで目の前に持ってくる。


朝のとは別の種類の可愛らしい花だった。


「ライハさん、本当に好かれてますね!!」


クユーシーの純粋な笑顔に、オレは頭の上の花をどうすればいいのか分からなかった。

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