第187話 エルトゥフの森
足を踏み入れたとき、全方向から一斉に視線を感じて肩が跳ねた。しかし、それも一瞬で、ふわりと溶けていくように消えると、柔らかい風が森の奥から吹いてきて、優しく頬を撫でた。
「…珍しいね、こんなに穏やかに受け入れてくれるなんて」
「いつもピリピリしてるのに」
「ライハ、あれ」
「ん?」
フヨフヨと蛍のような光が森の奥の方からやって来てオレの周りをゆっくり点滅しながら回る。そして誘うように森の奥に消えていった。
「入って良いって事かな?」
「じゃない?」
「とにかく行ってみるよ」
駿馬を歩かせていると、常に背中側から風が吹いてくる。サグラマの森で感じた風に似ている。
これなら、そこまで大事にならずに済みそうだ。
とか思っていた時もありました。
「おっとー…」
四方八方からエルトゥフの皆さんから矢と鉄ではない物で作られた剣を突き付けられている。
しかも主にオレとキリコが。
「ほらね、だいたいこうよ」
慣れた様子でキリコが敵意は無いと両手を挙げている。
「ここまでとは正直思いませんでした」
魔力を一切出さないようにしているのに、一目でバレるとは。
エルトゥフの結界と呼ばれる木の間を潜って一歩足を着いた瞬間、あちこちからエルトゥフが現れて完全包囲されてしまった。
「我等の森へ何の用だ!しかも竜の化身と悪魔を連れてくるなど!!侵略しに来たのか!!?」
最初から激昂してるおっさんエルトゥフ。
「まぁまぁまぁ、落ち着いてください」
宥めるアウソ。
「これが落ち着けるか!!!なんでよりにもよってこんな最悪な奴等をーーー」
アウソ黙って酒を鞄からチラ見せすると、おっさんエルトゥフの動きが一瞬止まった。
「分かった。言い訳は聞こう」
手のひら返し凄すぎやしませんかね。
しかし、危険人物扱いのオレ達には適応外だったようです。
牢屋に入れられました。
「はぁ、やれやれ」
手慣れた様子で牢屋内に積まれた藁を集めて簡易ベッドを作ると、ごろりとキリコが寝転がる。
あまりにも手慣れていて、まるで家に帰ってきたかのように寛ぐ様子を見て、オレはついこんな質問をした。
「…まさかとは思いますが、毎回なんですか?これ」
「毎回よ。もう毎回過ぎてここはアタシの宿みたいな感覚になってるくらいね。そこにある残った藁は使って良いわよ」
「じゃあ、ありがたく使わせていただきます」
オレも真似して作って座ると、何故か落ち着く。あれか、一月近く牢屋で生活してたからか。
『これさ、ネコ隠れる必要なかったんじゃない?』
ネコが鞄から顔を出して見上げてきた。
「そうだね、多分気付いているよな」
ネコが鞄から這い出てきて大きく伸び。そして意気揚々と藁の中に潜り込んだ。
『なんか落ち着く』
「すっげーわかる」
藁の臭いって、何か癒し成分が含まれているのかね。
服にまとわりつくのが気になるが、マテラの牢屋の衛生状態を思い出せば、この牢屋は外の音も聞こえるし光も入るし寝床も藁でフカフカという天国だった。
「あと少しの辛抱よ。今頃師匠達が長老と交渉してくれてるわ」
「じゃあそれまで寝て待ちますか」
やることもないし、藁のベッドに寝転がり眠ることにした。
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