第166話 迷宮へようこそ~この世界の真実~

フリィダンと聞いて、すぐさまリベルターが言っていた紹介したい人がいるという言葉を思い出した。


それが恐らくこのホログラムのような人なのだろうが、このダリスという方は自らを神だと言う。


あちらでは神だと名乗るやつは大抵頭がアレな人認識だったが、ここは異世界だ。しかし、それでも信じきれないのはこの神の格好だ。

細部は違えどOLのような格好をしている人が神だとはにわかに信じられなかった。


そんなオレの様子を見て、神は悲しそうに笑う。


「信じられないのは仕方がない。神だと名乗ってはいるけれど、そちらに干渉できるのはごくわずかだから。一応地球での貴方の国での真面目な話をするときの服がこれだと思ったから着てみたけれど、似合わないなら変えるわ」


「いやいやいや、待ってください。大丈夫です似合いすぎて脳が混乱してただけなんでそのままで大丈夫です」


あまりにも申し訳ない顔をしているもんだからこちらが悪者にでもなった気分だった。


「そう、ありがとう」


そこでようやく神は申し訳ない顔を止めてくれた。


「ところで、神様。ここは一体何処なんでしょうか?」


「ここは大昔、私が勇者としてそちらで活動していたときに使っていた隠し部屋を改造した、所謂異空間よ。何者にも干渉されないようにしているから、アイツにもバレやしないわ」


「そうなんですか。…………勇者?」


聞き返した。

勇者としてって言った?


「ええ。そうよ。多分貴方も聞いたことくらいはあると思うけど…」


神は一旦口を閉じ、開く。


「私はその世界での初代勇者スディ・ステータ。“始まりの剣”や“伝説の女神”とか言われてたけど、今は昔の話ね」


オレ、一瞬思考停止。再起動。

今までカリアやザラキが話してくれた第一次人魔大戦時に活躍した本当の初代勇者。

それがこの人。


聞いていた話とずいぶん違う気がするが、元々容姿は美しい女性以外は情報が曖昧だったから、神の力とやらでその辺は何か弄ったり魔法を使っていても不思議ではない。


そう思えば、初代勇者が作り上げてきた山を切断、大陸の一部に大穴、雲を消し去る等の作り話染みた話も案外本当なんじゃないかと思えてくる。


「それにしても、何の縁かしら。まさか、こんな形で再会とは思わなかったけど」


「?」


もぞりとフードの中でネコが動く。


「ネコ、いえ、テレンシオ」


「テレンシオって…」


確か二代目勇者。

英雄と謳われる人物。


「え、ネコ!!?」


思わずフードから顔だけを出すネコを見る。

しかし、その顔は何を考えているのか。黙って神の方を向いている。


「今のその姿じゃ分からないわよね。姿を変えられ、記憶すら無くした貴方はすでに死んだとされているもの」


それにネコは反論する。


『違う、ネコはネコだ。ライハの飼い猫で、ピアスに住み着く自我を持った悪魔だ』


「ええ、今はネコだわ。でも、貴方が持つ勇者の証の紋様は体に残っている。もっとも、今は宿主のライハさんにも融合の影響で同様の証が流れ始めているけど」


「待ってください!一旦ストップ!!!」


神に掌を向けて話を一旦中断させる。


頭に入ってきた情報を整理しよう。

まず、神ダリスが初代勇者のスディ・ステータ。

そして英雄と謳われる二代目勇者テレンシオが後ろのフードでだらけるのが好きで食い意地の張ったオレのネコの本当の正体。

で、最後はワケわからんかったけど、ネコと融合してるせいで勇者の証とやらがオレに流れ始めている、と。


頭を抱えたくなった。


「わけわからん」


「混乱するのは仕方がないわ。これは長いこの世界の歴史と密接しているから」


「!」


神が音もなく近寄る。そして、オレに手を翳した。


「説明よりも視た方が早いわ」


神の手が眩く輝くと、頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。それは神の言う通り、この世界の歴史そのものだった。


何故第一次人魔大戦が起こったのか。

悪魔の正体。

魔力と魔法の歴史。

初代勇者の戦歴。

それによって生まれた宗派。

二代目勇者の戦歴。

世界同士の衝突による亀裂と、双崩壊の危機。

この世界の生き物の進化。

大戦時の大混乱。

観測者と遣いと呼ばれる人達の存在。

向こう側での世界のルール。

五人の魔王とその側近達。


それらの情報がまるでフラッシュバックのように次から次へと脳内を駆け巡っていく。


ガクンと足の力が抜けて地面らしき場所に膝をついた。大量の情報が一気に流れ込んできた為か、頭が酷く痛い。


『ライハ、大丈夫か?』


ネコが心配そうに顔を覗き込んでくる。

この情報が本当なら、近い内に第三次人魔大戦が起こる可能性がある。


「私が知っているのは二代目勇者が消えるまでの出来事よ。それより後は、干渉を遮断されてしまって詳しくは分からない。それでも私の部下達、観測者と遣い達が懸命に世界を守って情報を教えてくれている」


頭の痛みが徐々に引いていき、立ち上がる。


「そこで、貴方にお願いがあるの」


ジジッっと神のホログラムが大きくぶれる。




















「三代目勇者になって、世界の崩壊を止めて欲しい」

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