第127話 毒

「それで、アタシがあの竜が汚染されているって気付いた理由なんだけど」


「!」


キリコが睨み付けるように竜を見ている。


「アタシは魔力を嗅ぎ取ることができる。あの竜は、竜本来の臭いと、何かが焦げて腐ったような臭いがする。とても嫌な臭いだわ…獣が焼けた臭いと死臭が混ざった臭いよ」


吐き気がする。


「……」


「出来ることならば、竜を殺さなくて良いのならそれに越したことはないよ。問題は、あの竜から毒をどうやって抜き取るか。そもそも言葉がきちんと通じるのかも怪しい。ああいう手負いの者は“野性返り”するからね」


「竜が汚染される程の毒は、多分普通の方法じゃ解毒できないわね。せめてなんの毒か分かればいいけど」


後ろで猫男に通訳していたアウソが、カリアさん、と手をあげた。


「この人が解毒できる薬草ならたくさんあるから、何かあれば遠慮なく言ってくれと言ってます」


「ありがとう、助かるよ」


説明を聞き終えたオレは竜を見た。

そういえば、オレもちょっと前まで一瞬で血液が汚染される毒入の手錠に苦しめられていたな。あれは回復魔法が効かないとかダンは言っていたけど。


ザラキさんは回復魔法、又は回復系神聖魔法が得意ではないが一応知っているということで教えてもらったのだが、回復系神聖魔法にも種類がある。一つは原因自体を体外に排出させる方法と、体の抵抗力を上げてやるもの。傷関係なら、対価として術者と受者の魔力、または術者と傷を埋めるためのモノ。術者と受者の魔力使って新陳代謝を上げるもの。あとは混乱なら落ち着かせたり、眠気を緩和したりと回復系は様々だ。もちろんこれは地域によっても変わり、流水や火焔で回復系魔法を発動させる国もある。


それにしてもあの毒は一体何が成分なんだろう。


一瞬で血液が汚染されるなんて。

回復魔法が効かないのは何でだ?普通はどんなものにも(オレは恩恵を受けたことはないが)効くはずだろう。


こういうときにやっぱりウロから色々聞いておけば良かったなと思う。オレにしてみれば神聖魔法なんて天敵以外の何者でもなかったし、下手したら魔力中毒並みに辛いモノだった。


何せ気持ち悪いわ熱が出るわ頭や関節も痛くなる。更に悪化すると手足痺れるし体に力が入らくなって、あげくの果てに呼吸しにくくなって倒れる。


(魔力中毒は回復魔法を使ってはいけないんだっけ?確か紅破(クバ)の葉のお茶を飲ませるんだったか…)


ホールデンの記憶はだいぶ薄れてきていて、詳細はもう忘れてきているが、あの時はとにかく体が辛くてしんどいのをどうにかしたくて色々質問したなと懐かしくなった。


「あの竜も魔力中毒だったりして」


「今なんて?」


カリアが聞き直してきた。


「え?」


「あの竜がなんて?」


「え、魔力中毒だったりして…なーんて」


カリアが目を見開く。それはまるで遠い昔を思い出すかのように。


「キリコ、竜は魔力中毒を起こす?」


「……」


キリコは考えた。


「元々の魔力の溜め込む量が膨大だからほとんどないけど、もし、溜め込んだ魔力の方に問題があるのなら…可能性はあるわ」


「ライハ、あの竜の溜め込んでいる、もしくはどんな種類の魔力かを見ることはできる?」


「? やってみます」


なんだか分からないけど、言われた通り粒子ではない方の魔力を見る目で見てみる。


すると、竜から漏れ出すように真っ黒い靄と黒くはぜる粒が大量にあり、まるで今にも竜を覆い尽くして呑み込んでしまうかのように感じて、なんだか気持ちが悪くなってきた。まるでシルカでのルツァ事件で倒した巨猿の折れた角から漏れ出していたものに似ている。


「カリアさん、あの竜黒い色の魔力が溢れ出ていて、見ていて気持ちが悪くなってきます」


長く見ていたくなくて目を切り替えた。

未だに気持ちが悪い。


「………わかった。一旦帰るよ、みんなに話したいことがある」

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