第111話 認識の違いにより

粒子に命令する。


すると好き勝手に流れていた粒子がこちらに方向を変え、体のなかに吸い込まれるような感覚がする。


「そのまま、ゆっくり、深く呼吸しろ」


すると体の内側が熱い塊が生まれた感覚がして、それがじんわりと体の隅々にまで巡り始める。


「どんなだ?」


ザラキが期待に満ちた目で訊いてくる。


「なんだか体が温かくなってきました。あ、これ経験あるわ」


優しい温かさ。

冷たくなった腕を温めてくれた魔宝石を握ってた時の温かさと同じだ。


「って、何してるんですか?」


ザラキが明後日の方向にガッツポーズをしていた。


「お前できたじゃねーか!!なんだよ!そんなんでも集まるなんて聞いてねえぞ!!」


「いたっ!痛いですザラキさん!」


喜びのあまりザラキが背中をバンバン叩いてきた。どんだけ嬉しいんだこの人、逆上がりが成功した子供みたいな顔をしている。


「くそー、長いこと生きてたが別のやり方を試したことがなかったからなぁ!新発見だ!」


「成功したんですか!?」


「ああ!成功した!!お前が言っていた風の粒子は純粋な魔力だ!!そうか、そうか、人間とは見え方が違うとか考えなかったな、これはそく纏めて書き残さないと…」


何やら嬉しげにブツブツ言い出したザラキから視線を外し、自分の手を見る。まだ凄い勢いで集まる粒子が見える。それをピントを変えて靄を見ると、いつもよりもハッキリと自分の靄が見えた。それは普段のネコに見えるものとほぼ同じくらい。


もしかしてこれは体内に蓄積する魔力的なものか?

山の上で見えたネコの純粋の魔力と思っていたものは実は体内に蓄積している方の魔力で、オレとザラキは見えている物が違うことを知らなかった為に勘違いしていたと。


「うわー、オレの目めんどくせぇ」


あれだ。高性能の機械なのに高性能ゆえに調整やらスイッチ等のやることが多すぎてめんどくさいアレな感じ。


これは一回ザラキとどれだけ見え方が違うのかを話し合って置かないと、また話が噛み合わなくなる。












というわけで話し合った。

ザラキはようやく興奮が治まったようで、熱いお茶を静かに啜ってる。


オレは小腹が空いたのでネコと一緒にドライフルーツを齧っていた。


話し合いの結果、ザラキは靄と粒子と色が同時に見えるらしい。粒子といってもオレみたいにハッキリと見える訳じゃなく、ほとんど透明で、こう流れていると感知するギリギリの見えかたなんだそうだ。

そして風の帯の話だけど、これも見え方が少し違っていて、オレの帯が積極的に見える訳じゃなく、風の隙間が見える感じなんだと。


そしてオレはこの複数のピントを状況に合わせて自動選択していたらしい。

といっても靄のと色付きのみな。帯と粒子は最近認識し始めただけだからよくわかんない。


「もっと早めに話し合ってればよかったですね」


「今回は仕方がない。ここまで違うとは思わなかったからな」


『ネコにはお前らが言ってることさっぱりだけどな』


「ネコも見え方が違うのかもしれない、あとで教えてくれないか?」


『めんどいから、やーだ』


ザラキ、ネコに振られやや落ち込む。

そんなに知りたいのか。


「明日の夜、晴れたら山の上で試したいことがある。もっとも今回のでライハの魔力が増えて安定し始めたから別の実験だが」


「いいですよ!」


魔力が増えて体の調子が良いからか、何でも出来る気がした。

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