第89話 喋った

「じゃあコッチはこれをギルドに届けてくるから、宿頼むよ」


「はーい」

「了解です」

「分かったさ」


サンタクロースのプレゼント袋と見間違える程にパンパンに膨らんだ熊呑鼠の袋を担いで行くカリア。行き先はギルドです。


しかし、なんでカリアは毎回狩ったものを寄付しに行くんだろうか。不思議だ。前まではちゃんと素材屋で換金してもらってたのに。


「ま、いっか」


とりあえず今は宿探しだ。














久しぶりの美味しいご飯をたらふく食べて満足だ。湯屋も最高だったし、何よりこのベッドが堪らない。野宿だとね、虫が来るんですよ。いくら虫除け草の軟膏を塗っていても来るやつは来る。例えば蟻とかね。あれはトラウマだ。


「あー、旨かった。天国だわ」


「昼間の地獄が嘘みたいさ」


「ほんとそれな」


隣のベッドに大の字で寝転がるアウソに同意する。流石にもう筋肉痛は無くなってきたものの修行は辛い。あと、最近本当にカリアとキリコ容赦なくなってきた。やっぱり始めの頃はなんたかんだと気を使ってくれてたのが良くわかる。


だけどこっちの方が何故か居心地は良い。

ようやくちゃんと仲間になれたような気がする。


アウソが急に静かになったので横を向くと既に寝息を立てていた。


「はやっ!?」


いつも思うけど何時でも何処でもすぐに寝られて羨ましい。


「じゃなかった、オレも寝ないと。明日も早いからなぁ」


掛け布団の中に潜り込みさあ寝るぞというときに猫が決まってやって来て横にずれろと体当たりしてくる。はいはいずれますよ。


連日の疲労のせいで目を瞑れば意識はあっという間に落ちていった。







キラキラ。ちかちか。


黒い空間に浮かぶあの時見た光景に似た光が踊っている。その奥の方に人影が見えた。


目を細めても輪郭がボヤけて分からない。

ソイツはゆっくりと振り返る。



しかし顔が見える寸前でオレはその空間から弾き出された。






「?」


目の前を蛍が飛んでいた。


寝ぼけながら体を起こすと何故か部屋の中いっぱいに蛍のような物が飛んでいる。


「!?」


慌てて窓を見ると開いていた。閉めたと思ったが閉め忘れていたらしい。外は月が出ていて、蛍のような物はそこから侵入してきていた。


やばい閉めなきゃと起き上がると違和感を覚える。


辺りを見渡し気付く。

猫がいない。


「猫!!」


部屋の中をくまなく探したが見付からない。

もしや窓から外に出てしまったのか!


ここは三階だ、落ちでもしたら怪我をしているかもしれない。あいつ猫だけど、三階だし。


とにかく確認しなければと窓の方を向くと、黒いもやが現れた。それは徐々に形を変え、見知ったものへと形が整っていく。


ゆっくりと瞼が開き金色の瞳が覗く。そして、一つ欠伸をした。






『まったく、ほんのすこし形を消していただけでどんだけあわててんだっつーの』






猫が、喋った。



「はああああ!?え?なにお前喋っ…!!」


思わず指をさす。


『はん?ネコはしゃべっちゃダメなわけ?』


不機嫌に尻尾が揺れる。


「いや、そういうわけじゃないが…」


『ふーん、まぁ声が出るようになったのはさいきんだからね。多目にみてあげる』


許された。いや、いやいやちょっと待て。

なんで猫が喋っているの?そもそもどっから声出てるの?ていうか、あ、もしかして。


思い付いたことがある。獣の姿で口が利ける者。


「…えーと、うん、ネコって猫の姿しているけど獣寄りの獣人(ガラージャ)かな?」


『なに言ってるの?ネコはネコだよ』


「うん、わかった。オーケー、ネコは猫だ」


オレは考えるのを放棄した。

もしかしたらここでは猫は喋れるのかもしれない。ほら、馬に牙や鱗があっただろ?それと同じだよ多分。


「なんで急に喋れる様になったの?」


『カンソクシャのおかげだよ。あれのおかげで力が少しもどって自由にできるようになったんだよ、見てろよ、こんなこともできるんだ』


猫が揺らめいて、一瞬のうちに溶けて影と一体化した。


そしてその影は消え、突然背中にずっしり重いものが被さってきた。倒れないように踏ん張るが重い。ていうかなんで、いつの間にそこに。


『な!すごいだろ?すごいだろ?』


猫の鼻息が凄い。これは誉めろと言っているのか?


「凄いな、何が凄いってもうなんでこうなっているのか分からないくらい凄い。偉いぞネコ」


『フフーン』


肩に頭を乗せてくる猫を撫でてやるとゴロゴロとバイクのエンジンの様な音を出す。図体がでかくなると音が低くなってきて、少し怖い。


でもなんだか機嫌が良さそうで良かった。なんでこんな変な事が起きているのか全然分かんないけど。


あ、夢かこれ。


「よーし、じゃあそろそろ寝ないとな。明日も早いから寝るぞ」


『んー』


猫を背負ったまま窓を閉め、先に猫をベッドに下ろすと掛け布団に潜り込んだ。


さて、寝よう。


背中に猫の気配を感じつつ目を瞑った。

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