第16話 タゴスは遠征中
「違う!もっと軽くもって!そう!剣の重さを利用するんだ」
昼前の訓練所に厳しい声が響き渡る。
それと同時にリズムよく聞こえるビュッとした風を切る音。
こんにちは、ライハです。
今日はタゴスが軍の遠征の為いないのでユイに剣の修行を手伝ってもらっている最中なのですが、開始して二時間ずっと重りのついた木剣での素振りのみで腕が悲鳴をあげています。
「速度落ちてる!!」
「ひいっ!!」
疲れすぎて「はい」すら言えなくなってるほどにはキている。
ちなみに素振りしている数は四百を数えた辺りから分からなくなった。
てかね、重りがついてるからそれを上げること以外に意識を割ける事ができない。ただでさえ腕が震えて上がらなくなってきてんのに。
「はい、千!!終了!!」
「ぐふあーーっ!!」
変な悲鳴が上がって木剣を落とす。
息切れひどい。意識朦朧してる。
腕はすでに使い物にならずに機能停止した。
水を飲みたいけれども、多分今飲んだら吐くかもしれない。思わず座り込んで唸っていたら首もとに水で冷やした布が掛けられた。ああ、ひんやりして気持ちが良い。
「お疲れ、よく頑張ったな」
そう言ってユイが水の入った筒を手渡してきた。
嘔吐感なくなったら飲もう。
地面に汗が落ちて水玉模様を作っているのを眺めながら息が整うのを待った。ここ最近常に走り、体力作りを頑張っているお陰で前のようにすぐにバテなくなってはきたが、腕は別だ。明日の筋肉痛が怖い。
ようやく水が飲める程に回復したので筒に口をつける。爽やかな柑橘系の味が含まれていた。
タゴスが前教えてくれたキンの果肉を入れた水だ。レモンを小さくしたみたいな実で、味はレモンを更に酸っぱくしたみたいな感じ。肉体疲労に効き、運動の後によく飲まれているらしい。
近くにあった椅子に座り休憩すると隣にユイも腰掛けてきた。
「今日の解呪は何なんだ?」
「えーと、確かわざと呪いを複数掛けて反転の呪いに付加を掛けることで効果を薄くしたところへウロさんがピアスに干渉して破壊した瞬間に掛けた複数の呪いを解いてみる…だった気がします」
「……説明だけでも大変そうだな」
「はい、恐らく今回は負担が半端ないので久し振りに倒れる気がします」
ゲンナリとした顔を向けられた。恐らくオレも同じ顔をしているだろう。もう慣れてきたといっても辛いものは辛いのだ。
「そういえば、ユイさん達は今どんな修行しているんですか?」
同じく水分補給していたユイが筒を椅子におく。
「今は対人から対魔になったところだな。小型の魔獣とかを森に入って戦闘を学んでいるところだな。といっても暴力バカは一人で突っ走るし、ノノハラは短気だし、コノンだけだなマトモなの」
「そっちも大変だね…。てかもう魔獣相手にしてるのか…、オレいつになったらそこまで行けるようになるんだろう…」
置いてきぼり具合が酷すぎて泣けてくる。魔法の方もチミチミ努力はしているのだが、いまいち成長しているのか分からない。今できる攻撃方法は握手の時に発動して相手の手にダメージを追わせるくらいで、冬によくある嫌がらせほどのレベルだ。
まぁ、これやったウコヨに後で思い切り殴られましたけどね。実践で使うにも勇気がいる。
「呪いが解けたらすぐに追い付けるさ、基礎を鍛えているのは無駄じゃないからな」
「早く解けるように頑張ります…」
◇◇◇
本日の解呪、効果なし。
ものの見事にすべて反転され、ウロが呪いの反転で発生した何かによって怪我したので途中で中止となった。オレ泣いて良いですかね。
部屋に戻って鏡に写るピアスを睨み付けるが、ピアスは知ったことかと言いたげに相変わらず耳に引っ付いている。
ちなみにこのピアス。
最近ウロが触ろうとピアスの半径20cmほどに手を近付けるだけで拒絶反応を起こし、手を弾き飛ばすことから自我が宿り始めているのかもしれない可能性が出てきた。
最悪すぎる。
「あー、くそ。他の勇者達にどんどん置いていかれるし…、体動かないし…」
拒絶反応のダメージは勿論こちらにもあり、今回は頭をバットで殴られたような衝撃で昏倒させられた。宿主にもダメージを負わす装備ってなに?呪いの装備ですね、チクショウ。
仕方がないので遊びにきたサコネに頼んで本を大量に持ってきてもらっている。動けないときは鍛練もできないので色々なことを勉強して今後に生かそうと思っているのだ。
幸いにもこの城には貴重な書物がたくさんあって、ここら周辺の地形やちょっとした魔物や魔獣の情報はバッチリ記憶。いつ役に立つのか知らないけどね。
パラリと危険生物の本を読み漁っていると、あいつらが来るような気配を感じた。
「ライハ遊びにきた!まんが見るよ!」
「というかもう見てるね!」
フォンという効果音と共にベッドの上にウコヨとサコネが登場。
そく寝転がり、袋の中からよく冷却された漫画を取りだし読み出した。結構繰り返し読んでいるのに飽きないらしく、つい先日には内容を知りたいからと朗読までさせられ、地味に恥ずかしい思いをする羽目になった。
「なぁ、ウロさんの様子はどうだった?だいぶ吹っ飛ばされてたみたいだけど」
見れたのは一瞬で、すぐに気絶したので詳しい内容は知らないが、マトリックスの様な格好で飛んでいくのは辛うじて見えていた。
「んー?大丈夫大丈夫。ああ見えて師匠頑丈なんよ」
「今回のだって吐血事件になってたけど着地失敗して舌思いっきり噛んで血が出てただけね。心配しなくていいし」
「そうか、なら良かったけど…」
ほっと息を吐き書物に向き直る。
その時、サコネが ただ… と言葉を漏らした。
「?」
再び視線を双子へと戻した。
二人は視線を漫画へ向けつつ、何故か真剣な表情をしていた。
「ライハ。きっとこれからめんどくさいことが起こるね。すっげーめんどくさいこと」
「覚悟はしておいた方がいいよ」
ピンと張り詰め始めた空気のなか、思わず唾を飲み込んだ。
「………、わかった」
なんだかよく分からないけど、今まで以上に鍛練しておいた方がいいのかな。
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