第43話 退院するのはいいけれど……

 待合室でいろいろお話しすること一時間半後。ようやく、ぼくの番が回ってきた。名前を呼ばれて診察室に入ると、スタッフさんに抱えられたねこさんが待っていた。手の中で、踊るように暴れている。ぼくが抱っこしても、とにかく暴れる。


 いやん、いやん、ぼく降りてあそびたいのーん。


 じたばた、じたばた、忙しない。このときはまだ、退院濃厚ではあるが、自信がなかったため、車中にカプセルホテルを置いてきてしまっていたので、急いで戻ってカプセルホテルにねこさんを入れた。


 うにゃー、だせよー。


 カプセルホテルの扉をガリガリとパンチしまくる。数日前まで虫の息だったとは思えないほどの力強さだった。


 ねこさんをあやすと、しばらくして先生がやって来た。そして、ついに先生の口から『退院だね』という言葉をいただいたのだった。


 やった!


 レントゲンでの肺の様子も、まぁ、いいでしょうということで、やっと退院することができることになったのだが、しかしなのである。


「問題はあるから」


 は? 肺炎以外の問題ですと?


「おうちで三日間、虫下しを飲ませてね」


 は? 虫?


 寝耳に水と言えばいいのか。とにかく、ぼくは耳を疑った。虫がいるなんてことを、このときまで考えたことがなかった。ねこさんが家にやってきて数日内で二回、虫の検査はしており、そのときの結果は白だったのだ。ただし、検査に持っていった便の量が多いわけではなく、検査できるギリギリだったことを思えば、発見に至らなかったのも仕方のないことだったのかもしれない。


 そして振り返る。仮退院の時にねこさんは虫下しの小さな錠剤を飲まされていた。嫌で三回ほど吐き出したが、無理やり飲まされた理由がここにあったことを今更ながらに気づかされた。


「あの……そんなにいるんですか?」

「うん、いるね。便がついた手を舐めるとね、身体の中で増えちゃうんだよ」


 その瞬間、ぼくの脳裏にいやな映像が思い浮かんだ。まだ入院する前の話。実はねこさん、自分が出した便を食べたのだ。ぼくが確認したのは二回ほどで、すぐに引き離して、便の始末はしたのだけれど、このときは体調が悪すぎて、食糞してしまったのかと思ったのだ。実際、わんこでも食糞することはある。ひなさんもある。実家の脂肪分解ができなかった先輩わんこさんの匂いがものすごくよかったのか、とにかく、そのわんこさんの糞だけを食べるのだ。すぐに始末はするものの、追いつかなかったこともあり、何度か食べられてしまっている。幸いだったのは、その先輩わんこさんが虫を抱えていなかったことである。


 栄養の残った糞を食べてしまうくらいには身体の具合が悪かったのかと思ったし、虫がいるとは露とも思っていなかったのもあり、これまで先生に食糞の話はしてこなかった。そして、便に砂をかけようとしていたが、体力の割に砂が大きく重たくて、上手くかけることができず、手についてしまったとか、踏んづけてしまったとかは何度かあった。その手を知らないうちに舐められていたこともきっとあったに違いない。またしても、ぼくの無知から来た失態である。


 恐る恐る、その旨を先生に伝える。


「便……食べました」

「それじゃ、爆発的に増えるね」


 いやぁぁぁぁっ!


 大ショックな一言だった。


「四日後にまた見せてね。便も持ってきてね」


 獣医さんで三日分の粉状の虫下しと、回復用の缶詰を処方され、ひとまずは退院できる運びとなったものの、まさか、まさかであった。退院するのはいいけれど、問題がまったくない状態でおうちへ帰るわけではなく、まだまだ、通院しなければならない状態であったのだ。


 帰って来るぜ、うぇーい!


 なテンションは、虫がいますの一言で急降下する。


 そして、その後、ねこさんの中にいるであろう虫のことを調べて、さらにぼくは真っ青になる。これもまた、彼の不調の原因のひとつであったことを痛感して、頭を抱えることになるのだった。


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