第31話 運がないとは言い切れない

 ねこさんが入院してから、本当にやることがなくなってしまったぼくをハットリくんはパチンコに誘った。これから入院費が掛かるのだから、やめておけというのは理解できる。しかし、ぼくはパチンコも好きなのである。家でふさぎこんでいるよりも、少しはストレス発散になるだろうと、さらにぼくの好きな漫画であり、ねこさんの名前の由来になったアニメのパチンコ台が一円で遊べる機種でも出たからという理由から、ぼくはハットリくんとともに久しぶりにパチンコにでかけたのである。


 ハットリくんと並んでパチンコ台に座り、同じように打つ。一円とはいえ、ミドル台なので三百回転以上させて一回の確率の遊技台。アタリがつくまで時間とお金を要するのと、当たればもうかる可能性が高いが、飲み込まれる可能性も同じように高いのである。


 そして結果を言ってしまえば惨敗だった。ハットリくんは確か小さなアタリが来ていたが、ぼくはリーチもそこそこだったし、回らないし、それよりなにより、とにかくアタリがつかないのである。あきらめて九十九回に一回の確率でつく甘台と呼ばれる遊技台に移動しても、まったくつかないのである。ちなみに、この日つかなかっただけでなく、それから数回行ってきたのだが、恐ろしいほど当たらなかった。さらにつらかったのは、ぼくがお金をつぎ込めど、ムリだとあきらめた台に座ったおじさんが、千円くらいで連チャンを引いたことだ。しかも、数台に渡って、そんなことが起きた。

 

 読みは当たっている……と思う。実際、ぼくはパチンコ台を選ぶにあたってのマイルールを持っている。もちろん、基本的にギャンブルである以上、遊技に来た人間が勝ち続ける、儲け続けるというのはプロでもない限りは難しいし、遊ばせてもらうのであって、パチンコ屋が大盤振る舞いして金をばらまくシステムでもない。つまり、遊びに来るやつは決して儲かることはないわけで、パチンコ屋の利益を上げているだけなのであるが、好きな人間はこれをわかっていながらも、儚い夢を見るわけである。


 横道にそれたが、普通ならば、当たらない状況が続くなんてことはめったに起こらない。単発でもアタリは引くものだ。けれど、恐ろしいほど、単発さえも当たらない。違う意味で神ががり的に当たらなかったのである。


 欲があるときはアタリにくくなるのは確かだ。実際に、ぼくに欲がなかったとは言えない。入院費の足しになれるくらい当たらないものかと少しでも思わなかったと問われれば、全力否定する。思った。本気で思った。こういう気持ちもおそらく見抜かれていたのかもしれない、神様に……


「本当にまったく当たらないなんて……運が悪すぎる」


 ぼくは首をひねりまくっていた。ねこさんの状態が最悪で、さらに公募作品も落選していた。その上、パチンコではがっつり負けまくる。こんなにラッキーが続かないものだろうか? 


「運が悪いとは言い切れないぞ」


 ぼくとは違って、多少なりアタリを引いている(ぼくと出かけず、一人で出かけているときは勝ち越している)ハットリくんが言った。


「そりゃ、おまえは勝ってるからな。ぼくは負け越し続きだ。読みは間違っていないのに、どうもツキがない」

「だからさ、それも考えようだって。おまえが今、ガンガン勝っていたほうが俺は引くわ。なぁ、こう思えよ? おまえのツキをさ、あいつにくれてやってるんだって。あいつの命をつなげるために、おまえの運を分けてやってるんだってさ。だから、今、勝っちゃいけないんだよ」


 目から鱗だった。


 なんてポジティブシンキング―!


 言われるまで、ぼくの中ではこんな考えは浮かばなかった。ゆえに、この言葉に胸が奮い立つ思いがした。


 そうか、ぼくの運が悪いってことは良いことなんだ!


 単純である。しかし、かなり嬉しい言葉でもあった。使ったお金が惜しくない(惜しく思わねばならないが)、負けても悔しくないと気持ちが一気に前向きになった。けれど、ヤツである。そんな前向きな話だけをするわけがないのである。


「逆に言えば、おまえがそこまで運がないってことは、あいつもなかなか厳しいかもしれないけどな。助かってほしいけどなぁ……」

「なんで、そんなこと言うんだよ! どっち信じりゃいいんだよ!」

「そりゃ、まぁ、おまえ次第だなぁ」


 最終的に、ぼくはポジティブな方を信じることにした。そして同時に神様にお願いもした。


 ぼくの運なら、いくらでも分けます。だから、どうか、あの子にぼくの運を使ってやってください――と。


 その後、ねこさんの状態とともに、ぼくの運気も回復してくるのであった。

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