和歌のようなもの

公園のコンクリートの階段に猫すはりたる秋の夕暮

【読み】

　こうゑんのコンクリートのかいだんにねこすはりたるあきのゆふぐれ

【大意】

　公園のコンクリートの階段に猫が腰を下ろしている秋の夕暮れである。

【附記】

　そのような階段を見かけて猫を幻視した。

【例歌】

　霧はるるかど田の上のいなかたのあらはれわたる秋の夕ぐれ　源経信

　鶉（うづら）なく真野の入江の浜風に尾花なみよる秋の夕暮れ　藤原俊頼

　萩の葉を吹き過ぎて行く風の音に心みだるる秋の夕ぐれ　西行

　心なき身にもあはれは知られけり鴫たつ沢の秋の夕ぐれ　同

　さびしさはその色としもなかりけりまき立つ山の秋の夕暮　寂蓮（じゃくれん）

　村雨の露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋のゆふぐれ　同

　ながむれば衣手涼し久方の天の河原の秋の夕暮　式子内親王

　見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕ぐれ　藤原定家

　行く秋のあはれを誰れに語らましあかざ籠にみて帰へる夕ぐれ　良寛

　一心に遊ぶ子どもの声すなり赤きとまやの秋の夕ぐれ　北原白秋

【例句】

　かれ朶（えだ）に烏とまりけり秋の暮　芭蕉

　此道や行人（ゆくひと）なしに秋の暮　同

　秋の暮行（いく）先々の苫屋（とまや）かな　木因（ぼくいん）

　舟炙（あぶ）るとま屋の秋の夕哉（かな）　嵐雪（らんせつ）

　ものいへばふたりの様なあきの暮　土芳（とほう）

　岡釣のうしろ姿や秋の暮　其角（きかく）

　みみたててうさぎもなにと秋の暮　千代女（ちよじょ）

　秋の暮仏に化ける狸かな　蕪村

　あちらむきに鴫も立（たち）たり秋の暮　同

　新宅に鼬（いたち）わたるや秋の暮　大江丸（おおえまる）

　寺子屋の寺子去（い）にけり秋の暮　召波（しょうは）

　人の上に烟（けぶり）かかれりあきの暮　暁台（きょうたい）

　行き行きて深草に出たり秋の暮　蝶夢（ちょうむ）

　気のつけば馬も通らず秋の暮　白雄（しらお）

　戸口より人影さしぬ秋の暮　青蘿（せいら）

　秋のくれこころの花の奥を見む　同

　悲しさに魚（うを）食ふ秋の夕哉　几董（きとう）

　庭掃けば掃くほど淋し秋の暮　蒼虬（そうきゅう）

　手招きは人の父也（なり）秋の暮　一茶

　打寄（うちよす）る汐木もとらず秋のくれ　卓池（たくち）

　市中（いちなか）や鴉（からす）人を見る秋の暮　河東碧梧桐

　つくねんとして秋の夕を更しけり　寺田寅彦