第95話

”forest story”(指輪物語4)


黒蜜おばばに頼まれたのは『鎮魂の指輪』と『復活の魔香水』の二つ。

「鎮魂の指輪」を付けた人の掌を対象者の頭に当てて「鎮まれ」と唱えるとどんなに荒ぶる神の魂だろうと鎮める指輪。

「復活の魔香水」は禁断の死者を復活させる魔香水だ。

どちらもほぼ伝説上の物でしか聞いた事が無い。

けれども私達夫婦がこの二つを作らなければ明日にでもこの世は終わる・・・。

高雄さんを見ると高雄さんも私を見ている。

私は黒蜜おばばに「わかりました作ります」と高雄さんの手を握りながら言った。


材料は黒蜜おばばが揃えて持って来てくれた伝説級の物を使う。

指輪には数万年前に地球に堕ちた宇宙の中心でつくられたとされる隕鉄。

魔香水には台湾の徐福仙人が約二千年前から作り続けてきた仙丹と言われる飲んだ人を仙人にする薬。

(長年正しく修行した適性がある人が飲まなければ仙人にはなれない)

普通、これらを使っても黒蜜おばばの望む物は恐らく作れない・・・だからどんな者の魂でも最悪な状態にする指輪と神をも殺す魔香水を作りその二つを反応させて望む二つの物を創り出す。

良い方向の物は無理でも最悪な物は創り出す事が出来そう。

時間が無い。

私達夫婦はそれぞれの仕事場に材料を持って飛び込んだ。

とは言え実際の作業はいつもと変わらず作るのは簡単だ。

ただ、掛ける魔力の質と濃さが違うだけ、これは高雄さんの方も同じだ。

マイナス方向の魔力を掛けながら魔香水を作っていると周りから悪い者が寄って来る。

いつもは、三俣が追い払っているけれども今日は其れ等をも利用して魔香水を作っている。

屋敷の丁度反対側にある高雄さんの仕事場にも魑魅魍魎が集まって来ている気配を感じる。

私の仕事場にあるソファーでハーブティーを飲む黒蜜おばばが「凄いね〜この屋敷の周り地獄より邪悪な気配を感じるよ早くしないと経堂に人が住めなくなるよ」と言っている。


後、一息で史上最悪の魔香水が出来上がる・・・。


最後にビーカーに掌を翳し《かざし》普段は唱えない呪文を唱える。

「調香の魔女、薫子の名の下に最悪の魔香水よ誕生せよ!!」

ビーカーの中に周りの邪悪な者達を一気に吸い込み一見水みたいな魔香水が出来上がった。

でもこの魔香水を浴びた者は例え神だとしても死んでしまうだろう・・・。

屋敷の周りの様子を伺うと高雄さんの仕事場からも悪い気配が消えた。

コンコンと扉がノックされる。

こちらも一見何の変哲も無い指輪を手にした高雄さんが部屋に入って来た。

ソファーから調香台の前に来てビーカーの中を鑑定魔道具で鑑定している黒蜜おばばに目を向けると悪い魔女とはこれか!と言う顔で最悪の魔香水を嬉しそうに見ている。

私は、一瞬『蜜ちゃんの事は嘘で私達夫婦を騙して最悪の魔香水と呪具を作らされたのではないか?』との考えがよぎった。

しかし素早く高雄さんの手から指輪を受け取り鑑定魔道具に掛けた黒蜜おばば。


先程の不安が更に大きくなった。

私は毒耐性がありどんな毒でも大丈夫だが黒蜜おばばは魔法薬を作る魔女だけに私に次いで毒耐性があるが完璧では無い・・・蜜ちゃんの事が嘘では無くとも最強最悪の毒にヤラレてたら?


「指輪も最低最悪な物が出来たねぇ〜」

魔香水の入った瓶を持ち指輪を右手の薬指に嵌めた黒蜜おばばは口をVの字に吊り上げ箒に跨り窓を突き破り飛んで行ってしまった・・・。

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