第84話

コンコン、コンコンと窓を叩く音が聞こえる。

横浜の私達が住んでいるマンションは地上10階建ての最上階で角部屋だ。

今、コンコン言ってる窓はキッチンにある小さな窓で外は只の壁・・・。

通常、この窓をノック出来る者は居ないはず。

でも私の知り合いは空を飛べる使い魔も沢山いるので窓を開けて見る事にした。

安全対策で全開には出来ないけれども掌サイズくらいは開く、小さな使い魔なら楽々通れる。

そっと窓を開けてみると黒いカラスさん。

知り合いの使い魔の八咫さんかと思ったけれどもどうも違う。


「私は蜜、貴方は誰?」

「突然の来訪を失礼します。私、京都の清明神社から参りました式神です。我が主人から蜜さんにお手紙をお届けに参りました。」

そう言うとカラスさんが和紙で包んだ手紙にポンと変化した。


表面に五芒星『☆』が書いてあるわね。

裏には『蜜ちゃんへ安倍晴明』と書いてあった。


手紙を開いて読んでみると何々?。

「はじめまして蜜ちゃん。先日のハロウィンに東京中の幽霊さんを大量に成仏させた手腕、お見事でした。蜜ちゃんのお陰で東京の怨霊が鎮まりとても感謝しております。本来なら我々、陰陽師の仕事なのですが近年では力のある術師が不足しており対応がままならない状況でした。この度のお礼に丹波山の栗や松茸等をご馳走したいので清明神社へ遊びに来ませんか?。旬の食材を送っても良いのですが、京都の食材を京都の水で作った京料理を京都で食べるのが一番美味しいと思うので御足労お願いします。安倍晴明」


丹波山の栗や松茸かぁ。

とても美味しそうね〜萩の柄の着物を着て行って見ようかしら。

少し夜は遅くなるかもと人郎さんにメールしてと、家事をしている玉ちゃんに京都で秋の味覚を堪能してくると話して相棒の買い物籠を持って清明神社へ行って来ま〜す。


一条戻橋前の暗闇から現れた私が戻橋を渡ろうとすると橋の袂から鬼さんが腰を屈めてやって来た。

「蜜ちゃんですか?お待ちしておりました。清明様の式神です。どうぞこちらへ」

腰低い鬼さんね。


橋を渡ると生成りのシャツにジーンズ、スニーカーと言う姿の大学生風の長髪を後ろで纏めた青年が笑顔で迎えてくれる。

「はじめまして蜜ちゃん。安倍晴明です。今日は来ていただきありがとうございます。」

ラフな出で立ちの清明さんがピョコンとお辞儀をする。

私もつられてピョコンとお辞儀した。


「すいませんね。こんな格好で、ちゃんとした陰陽師の装束でお出迎えしたかったんですが今時、そんな格好をして歩くと写真撮らせてと観光客に捕まってまともに歩けないので・・・」


何だか身につまされるわね。

まるで魔女っ子の撮影でボンテージ姿の時の私ね、まるで。

ウンウンと頷きながら清明さんに付いて行くと社務所脇の木戸を開け奥へ通される。

清明神社の生活スペース見たいね。

最初に案内してくれてた式神さんがお辞儀してから木戸を閉めて消えて行く。


小さな中庭を抜け平屋の家へ。


座敷に通され大きな座卓の上座にある座布団に座らせられると紅葉の着物を着た年配の女性がお茶を持ってやって来た。

「蜜ちゃんようこそ我が家へ。清明の母親で葛の葉です。お見知り置きを」と頭を下げられた。

私は慌ててお辞儀をする。

「この度はお招き頂きありがとうございます」

「地獄の使者で天界から黒い天使と言われモンスターズを従え東京中の幽霊さんを成仏させてしまう蜜ちゃんを迎える事が出来大変光栄です。本日は大した物は出せませんが旬の料理を食べて行ってくださいな」

そう言うと葛の葉さんはお盆を持って奥に下がってしまう。


大した事はしてないつもりだったけど何だか私の評価が高いわねぇ。困ったわ。


美味しい松茸土瓶蒸しと小さな七厘で焼いた松茸が中心のご馳走とホコホコの栗ご飯を頂き焙じ茶と栗蒸し羊羹をパクパク食べて着物の帯が苦しくなった私を楽しそうに見てる清明さんと葛の葉さん。


「蜜ちゃん、今食べた松茸より美味しい天然舞茸があるのですが取りに行きませんか?」

「えっ!これより美味しい舞茸?行きます行きます!」

清明さんが私にそう言うと葛の葉さんが清明さんを睨む。

「清明、まさかあの場所の事を言っているのですか?舞茸を口実に蜜ちゃんを厄介な場所へ連れて行ってあわよくば京都の怨霊を鎮めようとしてませんか?」

そんな葛の葉さんにニコニコしながら言い返す清明さん。

「母さん、蜜ちゃんならあの怨霊の出す瘴気なんか何でも無いよ。それにあの瘴気で誰も近づかないから貴重な天然舞茸の宝庫なんですよ?あわよくば何て思ってませんよ確実にあの怨霊は蜜ちゃんを見たらメロメロになって言う事聞きますよ」

なんか面倒事に巻き込まれそうね・・・。

「ところで蜜ちゃん、魔女っ子の撮影で使っていたボンテージを着て鞭を持って付いて来てもらえませんか?」

確実に面倒事ね・・・一体どんな怨霊かしら?


そんな清明さんに連れて行かれたのは嵯峨野の奥にある山間。


うーむ、不思議な瘴気ね。

邪悪と言うより何か満たされない欲求が溜まりに溜まって出来た様な・・・。


すると目の前にゲートと柵が現れた。

ゲートの上には『皆んなの友達♡レッサーパンダ園』。


看板を見て呆然としている私に清明さんが。

「ここは、この場所と一体の山を持っている地主さんが余りにレッサーパンダが好きすぎて私設の動物園を作りレッサーパンダをモフモフする夢の園を作ったのですが。レッサーパンダの数が増えてレッサーパンダの構って攻撃が激しくなり、とうとう腰をやられて自宅療養中なんです。」

「何だか壮絶な話ね・・・」

「餌やりや掃除は飼育員さんがやっているのですが、飼育員さんが構ってやっても愛情が足らないのかレッサーパンダの欲求不満が溜まり瘴気となって余程慣れた人しか近づけなくなってしまい結果的に裏山が舞茸等の宝庫に・・・蜜ちゃんどうかレッサーパンダ達を構ってやって下さい」

清明さんが深々と頭を下げた。

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