第36話

月から人狼一族のお屋敷に帰った私を待っていたのは、ロン毛でサングラスをしたアメリカ人だった。


買い物籠を手に持ちチャイナドレス姿で屋敷の居間のカーテン裏の暗闇から現れた私を見たロン毛が抱き付こうとして来たので、買い物籠の角で殴り飛ばした後に甲斐犬に変化してズタボロにしてやった。

人の姿に戻り爪先で蹴りを入れ動かないのを確認してから黒蜜おばば達に月での出来事を報告する。

「月の兎が明日の夜に飛び跳ねるのを阻止する事に成功しました。これで地球に災いは起きません。かぐや姫と仲良くなり月の雫と言う宝石を貰って来ました。ちなみに月の兎、重力兎の一族が私の事を黒い悪魔と呼び忠誠を誓い。私が魔鏡で指示した地球の座標に隕石を落としますと言っていました」


私の報告に口を開けたままの皆んな。

何か変な事を言ったかな?

抱き付こうとしたロン毛に焼きを入れたのがいけなかった?

振り向いてロン毛を見ると復活していわおの駄犬と握手して何か解り合っていて二人でキモい笑いをしている。

私、何かした?


黒蜜おばばが口を開けた状態から復活し。

「明日の災いを止められたのは判ったけど。最後の隕石って何?」

「甲斐犬の姿で月面にいた重力兎を狩りお菓子を与えた後に地獄と同じ様に月に一度世界の美味しい物を届けると約束したら忠誠を誓われ。帰り際に何かあたら私が魔鏡で指示した地球の座標に月から隕石を落とし攻撃しますと・・・」

「蜜の指示した座標に月から隕石攻撃・・・」

黒蜜おばばはまた口を開けて黙ってしまった。


そんな中で独りニコニコして私を見ていた私の旦那様、人郎さんが。

「蜜、お帰り。そこのロン毛が蜜に抱き付いていたら僕が咬み殺す所だったよ。手間をかけて済まないね。地獄人参茶でも飲む?」

この人いつも平常運転で頼もしい。三途の河の懸衣翁さんみたいで良いわ、あんまり喋らないし。


お手伝いさんを呼びお茶の用意を頼む人郎さんを見てその場にいた皆が椅子に座る。

駄犬とロン毛は大きなテーブルの端に二人並んで座っている。

お茶が配られ口を潤した後に白龍さんが口を開く。

「蜜ちゃんお使いご苦労様でした。明日の災いが回避出来たのならとりあえず良かったわ。詳しい話しは後程聞くとして。そこの駄犬と一緒に居るロン毛のアメリカ人はこの前話したロックシンガーで映画監督のブライアン。少し前に羽田空港にプライベートジェットで到着して例のマイクロバスが迎えに行きこちらの屋敷に着いたばかりだったの。いきなり抱き付こうとした馬鹿に躾けしてくれてありがとうね」

「貴女が蜜さんでしたか!動画で見ましたが浴衣姿も良いですがチャイナドレス姿も最高です!」

叫びながら椅子から立ち上がるロン毛。

私が、牙を伸ばし口を開けて威嚇すると隣の駄犬と共に小さくなる。

「空港に迎えに行ったマイクロバスの中でくれないと僕でブライアンと話したんだけど半年後に全世界で公開予定の映画に歌と助演女優として蜜ちゃんに出演をお願いしたいんだ。お蜜に紅も同様に歌と女優として出て貰う予定。紫苑が主演女優、僕が主演俳優になる歌と踊りと恋の映画になる予定なんだ」

白龍さん気合いが入って拳を握り締めて熱く語っている。

俳優と女優の性別が入れ替わっているのは誰も指摘しないのかな?


「先程のお話で蜜さんは月から隕石を落とすことが出来ると伺いましたが何処かに落とす事は出来ませんか?映画の冒頭で使いたいのです。もし隕石が降って来るシーンが撮れたら映画の題名と主題歌の名前を”メテオ”【流星】にしたいのですが・・・」

とんでも無い事を映画監督のブライアンが言い出した。

「機会が有ったらお前と駄犬の頭上に落としてやる」

牙を出しながら私は言った。

けれども南太平洋に隕石を落とす機会がこの後直ぐに有り無人機による撮影でブライアンの望みが叶えられるとは思ってもいなかった。

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