第32話

○の月と牛タン弁当を買い薔薇飯店のラウンジに戻った私は、まだ柱の近くで転がっていた駄犬を踏み締めてから黒蜜おばば達の前に行きお使い完了を告げた。

「牛タン弁当、色んな種類があって10個買って来ました。それと仙台駄菓子の詰め合わせに○の月を二箱。お弁当どこで食べます?」

「お弁当そんなに種類があったの?マイクロバスで本宅に戻りたべましょうか。人郎!そこに転がっている駄犬を連れて来て」

紅さんが買い物籠を覗き込みながらズタボロの駄犬を指差しながら言った。

人郎さんが駄犬を片手で摘み上げ外に停めてあるマイクロバスに向かう。

人郎さんのお父さん、運ばれる駄犬を見ながら。

「紅さんは、自分の祖父に辛辣だね。私は婿養子だから何とも言えないけど大丈夫なの?老人にこんな仕打ちして?」

「何言ってるの?この駄犬、戦前の満州で”死んだ振りの巌”と呼ばれていた食わせ者よ。今だって牛タン弁当10個あって自分の分も有ると知って口元が緩んでいるわよ」

運ばれる駄犬を見ると確かに口元が笑っている。

そう言えば先日も紅さんに殴られ狼に戻った後に私のチャイナドレスをオーダーで作りに行ってたわ。

侮れないわね駄犬。


マイクロバスで五分程走り山の上にあるお屋敷に着いた。


大きなテーブルのある食堂で牛タン弁当を皆の前に置く。

厚切り牛タン弁当、炭火焼き、味噌味、網焼き、紐を引っ張ると暖かくなるの等。

私は厚切り牛タン弁当をチョイス。

うーむ歯応えが良いわね牛タン。

タレも御飯にとても合うちょっと甘さ控え目。

黒蜜おばばは暖かくなる弁当の紐を引っ張って喜んでいる。

それを見た紫苑さん。

「それは、魔術を使っているの?」

と観察している。

白龍さんは、味噌味を堪能中。

テーブルの端で網焼き牛タン弁当を嬉しそうに駄犬が食べている。

あれだけ痛めつけたのにダメージを感じさせない。

死んだ振りだったのね、恐るべき駄犬。


人郎さんや紅さんに義父さんもそれぞれ牛タン弁当を楽しんでいる。

美味しい物は、人を笑顔にしてくれる。


牛タン弁当を食べ終わり屋敷のお手伝いさんに地獄人参茶を入れて貰い寛いでいると。

「蜜、余った紐を引っ張ると暖かくなる牛タン弁当と厚切り牛タン弁当も○の月と一緒に持って行きなさい。それと仙台駄菓子の詰め合わせも。きっと役に立つわ」

黒蜜おばばが兎封じの魔方陣と一緒に弁当を買い物籠に入れながら言う。

古銭に触れ甲斐犬の姿に変化して買い物籠を咥えカーテン裏の暗闇から月に居るかぐや姫の元へ移動する。


次に現れたのは、神酒のみきのうみ近くにある竜宮城みたいな宮殿前の岩陰。


いきなり真空だけど首輪の牙の加護と地獄使者の不死身の能力で何とも無い。

買い物籠を咥え月面をタッタッタとかぐや姫の宮殿に駆けていく。

重力が六分の一なので身体がポンポン跳ねて面白い。

あっという間に宮殿前に着いた。

どうやって入れば良いのかな?閉じた門の前で買い物籠を咥えたままピョンピョン垂直に飛び跳ねていたら監視カメラらしき物を発見!


監視カメラの前でピョンピョン跳ねていたら宮殿の門が開いて中から丸い玉みたいなドローンらしき物体がこちらに向かって来る。

買い物籠を咥えた私を見てプルプル震えている。

真空で音が伝わらないけれども付いて来いと言っている見たい。

門の中へ向かった丸い玉に私は付いて行った。

門の中に入ったすぐの場所に地下から突き出ているエレベーターが見える。

丸い玉はドアの開いているエレベーターに乗り込んで行く。玉の後に続いて私も乗り込むとエレベーターのドアが閉まり地下へ降りて行く。

地下のかなり降った場所でエレベーターが止まりプシュと音がして扉が開く。

目の前には機密性の高そうなドアが。

丸い玉に着いてエレベーターを降りると後ろのエレベーターが閉まりシューと空気の音がして目の前のドアがパシューと言う音と共に開いた。


開いたドアの前に居たのは十二単を着た髪の長い女の子。

何故か怒った顔で。

「私は、月を管理している。かぐや姫、貴女一体何者?使い魔にしたって宇宙服も着ないで買い物籠を咥えて監視カメラの前でピョンピョン跳ねてるなんて考えられない!」

「私は黒蜜おばばの使い魔で蜜と言います。かぐや姫様にお願いがあって参りました」

買い物籠を床に置いてお辞儀しながら私は挨拶を言った。

「お願い?それよりも何故貴女は宇宙服無しで生きていられるの?どうやって月に来たの?」

「私は地獄の使者で死にませんし首輪の牙の加護で護られて何とも有りません。そして私は暗闇から暗闇に移動する事が出来ます。あと、○の月をお土産に持って来ました」


○の月と聞いた途端に笑顔になるかぐや姫。

「それを早く言ってよ!お土産があるなら貴女が何者でも良いわ。こっちに来て」

白い壁の通路を宙に浮いている丸い玉と共にズンズン進んで行くかぐや姫について私も買い物籠を咥え歩いて行く。


かなり歩いた先のドアに掌を当てて開けて部屋の中へ丸い玉と入ったかぐや姫に着いて私も部屋に入った。

音も無くドアが閉まる。


部屋の奥は外が見渡せるドームになっいて青い地球が見える絶景。

外を向いて半円状に置いてあるソファーに座るかぐや姫。

自分の横の席を指し私を促す。

買い物籠の中身を出すのに犬のままだと面倒だと考えた私は右前脚をトントンしてチャイナドレス姿の人に変化する。

それを見て驚くかぐや姫。

「私、腕輪の魔力で人化出来るんです。驚かせてすいません」

謝りながら買い物籠の中身をソファー前のテーブルに出す。

先ずは○の月を二箱。

仙台駄菓子の詰め合わせ。

厚切り牛タン弁当と紐を引っ張ると温かくなる牛タン弁当。

流石、魔道具の買い物籠。

真空の宇宙空間でも厚切り牛タン弁当が温かいまま。

テーブルに置かれた温かい弁当を見て眼を向くかぐや姫。

「こ、この厚切り牛タン弁当食べて良い?」

「どうぞお食べくださいな」

私が言うや否や弁当の包装を開け割り箸を割り食べ始めるかぐや姫。

私は部屋の端に置いてあるウォーターサーバーから水を紙コップに入れテーブルに置く。

勢い良く弁当を食べていたかぐや姫は紙コップの水をゴクゴク飲みながら無言で弁当を食べている。

厚切り牛タン弁当を食べ終わりもう一つの弁当を見つめて動かないかぐや姫。

「こちらもお食べになります?」

割り箸を握り締めながらコクコク頷くのを見て。

「こちらは、この紐を引っ張ると温かくなりますよ」

弁当箱したの紐を引っ張ると湯気が発生してくる。

無言で弁当を睨むかぐや姫。

湯気が収まったのを確認して弁当箱の蓋を取りかぐや姫の前に差し出すと凄い勢いで食べ始めた。


舌を火傷しないかしら?


二つ目の牛タン弁当を食べ終わり紙コップの水を飲み干し私の方を向いて。

「こんな美味しい物を私に覚えさせてどうするつもり?次にこんな美味しい物を食べられるのいつになるのかしら?○の月だって無理言って持って来て貰ってるのにあれは二週間賞味期限があるから月まで運べるのに牛タン弁当なんてどうしたら良いの?」

あれ?このパターン聞いた事が有るような?

地獄の月一のお使いもあるし言って見ようかしら?


「かぐや姫様、よろしければ月に一回決めた日に地球の世界各国から選んだ美味しい物をお届けしましょうか?地獄へも同じ様な事をする事になっていますので」

ガバッと私に抱きついたかぐや姫。

「本当?世界各国の美味しい物?お願いしますぜひとも!貴女、蜜さんだっけ?お願いがあるって言ってたけど何でも聞いちゃう」


口の周りに牛タン弁当のタレを付けた顔を近づけながら言うかぐや姫に私は身体を仰け反らせる。


「私のお願いは、静かの海にいる兎を封じる魔方陣を設置する事です。月の兎が跳ねると地球に悪い事が起きると先見の魔女の予言が有りその予言に従いかぐや姫様に魔方陣の設置許可を頂きに参りました」

「静かの海の兎?昔逃げたペットの重力兎の事かしら?随分昔の事だけど増え過ぎて困ってたのよね。確かに重力兎が一遍に跳ねたら地球の干潮がおかしくなり大津波が発生するかも。でも魔方陣で封じても静かの海から逃げられなくするだけで根本的な解決にはならないわよ?猟犬でも連れて来て兎を狩らなきゃ・・・」

猟犬?兎を狩る?

何か引っかかる様な・・・。

「蜜さん、貴女が犬の姿で魔方陣で封じた静かの海で兎を狩れば良いのでは?」

甲斐犬黒蜜のお使いの意味が判って来たわ・・・。

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