第28話

【月の兎が跳ねる】と地球に大きな災いが起きる。

先見の魔女の予言書にそう記されているそうだ。

私は、それを防ぐ為に紫苑さんの作る魔方陣を月に設置して兎を封じる。

しかし魔方陣を設置するのにある問題が・・・。

月の管理人、かぐや姫に許可が要るそうだ。


蜜が勝手に移動して魔方陣を設置するのは可能だ。

しかし、かぐや姫に話しを通さずに設置すると後々問題になる可能性が高い。

せっかく封じる為に設置した魔方陣を撤去されたりする事もあり得るので、手土産を持って挨拶して話しを通す必要がありその手土産が”仙台銘菓○の月”だとか。

何年か前にお土産に貰った○の月をかぐや姫が大層気に入り以来大好物になったそう。

しかし月に行くには使い魔が飛んで行くにも特殊な装備を着て片道7日は掛かる。

地獄に行くよりも時間が掛かるので特殊な魔法に使う月の石を採掘するのに年に1〜2度使い魔が派遣される位なので大好物の○の月を中々食べられない。

そこに蜜が大好物を持って挨拶すれば話しがスムーズに進む事間違い無し。


明後日の満月の前日、つまり明日の午後。私は、仙台で○の月を買いそのまま月に移動してかぐや姫に挨拶して魔方陣を設置する。


「時間はまだあるわね。蜜は、明日の午後まで人郎さんと一緒に居なさい。私は紫苑叔父さんと魔方陣の製作に掛かるわ。東京の実家なら設備や材料もあるし。蜜と人郎さんは新婚を楽しみなさい。何かあれば私のスマホに連絡してあの山小屋の森では無いからちゃんと通じるから」


一通り食事を終えた黒蜜おばばが、紫苑さん白龍さんを連れ白いマイクロバスに乗り込み田園調布にある実家に引き上げて行った。


お腹いっぱい中華料理を食べて紹興酒が効いた幸せな気分の私は、黒蜜おばばを見送った薔薇飯店の玄関ホールで横に居る人郎さんに寄りかかり大きなアクビを一つ。

「父さん母さん、この一日色々有って蜜も疲れているみたいだから僕達は薔薇飯店に取ってある部屋で休むよ」

「そうね、それが良いわ。私も先程の白龍様のライフ映像の編集があるし、二人でゆっくりしなさい」

紅さんボーイさんが持って来た部屋のカードキーを人郎さんに渡しながら笑顔で言う。


私は眠い眼をこすりながら皆にお辞儀して人郎さんとエレベーターへ。


気がつくと次の日の朝に。


横に寝ている人郎さんが眼を覚まし。

「朝は、中華粥にしようか?」

と私にキスしながら言う。


中華粥と聞いて首を縦にブンブン振る私。


人郎さんの後にシャワーを浴びて部屋に出ると用意されていた黒いチャイナドレスと黒い布靴に着替えた。昨日の駄犬、巌さんの趣味で、紅さんに殴られ吹き飛んだ後に眼を覚まし私用に急遽、中華街の店で仕立てさせたそう。やるわねあの駄犬、一度見ただけなのにサイズぴったり。


姿見に映る自分を見ると浴衣も良かったけれどもチャイナドレスも似合う。


姿見の前でクルクル回る私を見ている人郎さんも嬉しそう。


薔薇飯店を出て少し歩くと細い露地裏のお店に着いた。

その店は、中華街に住む中国人でいっぱい。

中国の方々は、朝食はこうやって外で食べる方々が多いとか。

丁度空いた二人がけの席に座り慣れた様子で注文する人郎さん。

しばらく待つと、海鮮と鶏のお粥と油条と薬味がテーブルに運ばれた。

ホワッツと立ち上がる湯気から湯の良い匂いがする。

人郎さんが小鉢に海鮮粥を掬い入れレンゲと共に私の前に置いてくれた。

人郎さんは、小鉢に鶏粥を入れ自分の前に。

二人揃って頂きますとお辞儀して海鮮粥を頂く。


瀞みのあるお粥が、唇にまとわりついて熱い。

フーフーしながら口に入れるとちゅうかだしのお味が口いっぱいに広がる。

食道を通り胃に流れるお粥が眠っていた身体を目覚めさせ、脳に血を巡らす。


美味しい。


その後、夢中になって食べていたら人郎さんが薬味と油条を差し出す。


搾菜を刻んだのとネギを入れ食べると搾菜のピリッとした辛味が良いアクセントになり余計に食が進む。

油条と言う捻った揚げパンみたいなのを千切ってお粥に浸けてパクっと食べると油条の油がまた美味しい。


海鮮を食べ終わると鶏粥を小鉢に入れてくれる。

海鮮とはまた違う鶏の味が口に広がり身体が喜ぶ。


隣で食べていたお婆さんが、油条はお粥に足らない油分を取り込むのに最適な物と教えてくれた。


良いわ。

お粥屋さんこの雰囲気も気に入ったわ。


お粥屋さんを出て朝の中華街を歩く。

関帝廟近くの学校前を通るとこのインターナショナルスクールが人郎さんの母校だそう。

今の日本の学校だと人狼一族の方々の生活スタイルと合わないので皆さん中華街のスクールに通っているそう。

日本より海外に生活の場を求めて世界各国に現代の人狼一族は散らばっているとの事。


手を繋いで中華街を散策していると街の皆さんが人郎さんに挨拶してくれる。

学校が近くなので昔から顔見知りなんだとか。

日本に古くから居る人狼なんて日本的な一族なのに何だか面白い。


薔薇飯店のラウンジに入り中国茶を飲んで寛ぐ。


隣には愛する旦那さんが居て中国茶を飲んでるなんて幸せだわ。

お茶と一緒に出て来た馬拉糕(中国式蒸しカステラ)も美味しい。

中華街大好きになってしまったわ。


お茶を飲み終った時に人郎さんのご両親がラウンジに入って来た。

私は立ち上がりお辞儀して。

「義父様・義母様・おはよう・ござい・ます」

「おはよう蜜ちゃん昨晩はよく眠れた?」

「気が付いたら・朝」

「それは良かったわ。後継を期待してるわね」

紅さんニヤリと笑いながら言う。


椅子に二人が座ると二人の分の中国茶と私達の急須にお湯が足された。


先程、黒蜜おばばから連絡があり出来上がった魔方陣を持ってこちらに向かっているとの事。


昨日の白龍さんと紫苑さんのライブを動画配信したら物凄いアクセス数で問い合わせも殺到していし今日の夕方には、白龍さんが連絡したアメリカのアーティストで監督のブライアンも来るのでその対応が大変みたい。

プライベートジェットで移動中に動画を見たブライアンさん紫苑さんやチラリと映った若返った姿の紅さんにも映画に出て欲しいと連絡して来たそう。


これから大変な事になりそう大丈夫かしら?

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