第13話

 四回、ドアがノックされた。


「どうぞ」とフェルメールが言うと、ドアがゆっくりと開かれる。

「よう、ボウズ」

「ガウェインか。どうしたんだ」

「ちょっと話でもしようと思ったんだよ。入ってもいいか?」

「俺の家ってわけじゃないし問題ない」


 申し訳なさそうに部屋へと入ってきた。イスを引くと、ガウェインが腰を下ろした。


「いつっ」

「どこか痛むのか?」

「ああ、グラスギングにめちゃくちゃにやられた」

「俺たちを逃してくれた時か?」

「ああ、そうだよ。ったく、びっくりするくらい強い。あんなのデタラメだ」

「それは見てればわかる。頭一つ抜けてるっていうレベルじゃない。まともに戦えるとは思えない」

「その通りだよ。お前が戦っても勝てる相手じゃない。もしも出会っちまった逃げることだけを考えろ」

「もしかして、それを言うためだけにここに来たんじゃないだろうな?」

「その通りだよ。アイツと戦ったことがないと忠告はできないだろ? それとも、俺みたいなヤツからの忠告は受け入れられないか?」

「そういう言い方はないだろ?」

「初めて会話をした時、俺はお前を騙したんだぜ? お前とスカーレットのことは知ってたし、マルバドールのことだって、お前たちが解呪師を探しているのを知ってて声をかけたんだ」

「仕方なかったんだろ? 仕事だったんだろ? それなら気にすることはないさ」

「思いの外、聞き分けがいいんだな。スカーレットのこともそうやって受け入れたのか?」


 少しばかりの棘がある。こちらを批判するような物言いに、若干であるが苛立ちを覚えた。


「受け入れたわけじゃないさ。スカーレットが戻ってくるのならその限りじゃない」

「自分で取り戻すわけでもなく?」

「取り戻すつもりはあるさ。ただそれだと矛盾が生まれる。逃げろって言いながら、取り返すだのなんだのと焚き付けてくる。お前、なにがしたいんだ?」

「悪い。こんなことを言うつもりはなかったんだがな。自分でもこの苛立ちを解消する方法を上手く見つけられないんだ」

「それでいて俺をいたぶるのかよ、いい趣味とは言えないけどな」

「そりゃそうだ。でもな、俺はお前らが小さい頃から見てきたんだ。会話もしなかったし、なにかを施したこともない。でも、見てきたんだよ。ただの仕事だったかもしれない。けれど月日を重ねれば愛着だって当然湧くんだ」


 指を組み、視線を落とした。


 本当に悔しがっている。本当に腹を立てている。見てわかるからこそ、言葉を選ばなければいけないと考えた。


 けれどその言葉が上手く出てこない。どういうテンションで接していいのかがわからなかった。


 様子を見るという意味で、結果だけを述べることにした。


「なるほどね、お前がイラつく理由がよくわかったよ。でも、お前だってグラスギングに負けた。俺は戦ってさえいないけど、スカーレットを取られたという結果だけみれば一緒だ」

「まあそうだな。俺の方がちょっと上だ」


 ニカッと、歯を見せて笑った。


 少しだけ安心した。この男は信用できる。それに、無駄に飾って喋る必要もないと思った。


「かもしれないな。でも、できれば協力して欲しい。なにかあれば俺からも協力する」

「共闘関係ってわけじゃないが、心ばかりの信頼関係は築きたいもんだね」

「俺もそう思ってるよ」


 ガウェインが手を差し出してきた。


「なんだ、この手」

「そろそろ帰ろうと思ってな。手を貸しちゃもらえないか? まだ本調子じゃないんだ」


「素直じゃないな」とは言えなかった。素直になれないということは、その素直さを隠したいということだからだ。


 きっと、身体の痛みも隠しているのだろうと思った。それならばその気持ちを尊重するべきだと思った。


 手を握って立ち上がらせた。


 これは握手ではない。ただ、負傷した人に手を貸しただけなのだから。

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