第6話

 この山は草木が少ない。木もあまり生えておらず、だからこそ、景色が変わらない。


 退屈に思いながらも、二人は脚を動かし続けた。


「次の町には集会所、あるかな」

「さあ、どうだろうな。俺が持ってる地図が古すぎて、そういう細かいとこまでは載ってないんだ。最近の地図は割りと精巧に作られてるらしいけどな」

「なんで新しい地図を買わないの?」

「まだ使えるから、かな? もったいないじゃないか」

「お金はあるんだからいいと思うけど」

「この金だって綺麗な金とは言い難い。盗賊が誰かから巻き上げて、それを俺たちがかっぱらってきてるんだ。返す当てもないけどもったいない。それに俺たちには金が必要だ。だから持っていく」

「実際盗賊とあまり変わらないね」

「盗賊専門の盗賊ってとこか。いいことなのか悪いことなのか。まあ、悪いことなんだろうな。この金品を返せば良いことにできるんだろうけど」

「世の中って難しいね」

「そういうもんなんだよ。世の中も難しいし、人間だって難しい。人間なんてシンプルだって言う人もいるけどな、それはソイツの思考がシンプルにできてるだけだ。ソイツの考え方がシンプルなだけなんだ。思考と感情が入り乱れる人間という生き物が簡単であってたまるものか」

「いろいろと考えてるんだね、フェルは」

「この六年でだいぶ考えさせられたんだよ。汚い部分も綺麗な部分もたくさん見てきた。その上での結論さ。お前はそんなことを考えなくてもいい」


 頭に手を置き、そっと撫でた。


「私もいつか、そんなフェルと同じ目線で、同じことを考えられたらいいな」

「そうなりたいのか? お前が?」

「そういう言い方はよくない。私はフェルと一緒にいたいと思ってる。そう考えるのも当然」

「いつかそうなれたらいいな」

「うん、なれるように努力する」


 山頂を過ぎ、ひたすらに歩き続けた。


 難所らしき場所もなく、すんなりと山越えは終わった。しかしその頃には夕方になっていた。仕方ないと、今日は魔界との境界線で野営をすることになった。


 フェルメールの魔術とスカーレットの法術を合わせて小規模の結界を張った。正面は魔界、後ろは魔獣出没地域。結界を張るのも当然だった。


 山にいた魔獣たちは、凶暴ではあっても強力ではなかった。良くて中位魔獣、しかし数は多くなかった。なので簡単な結界でも充分機能する。


 着の身着のまま寝ても大丈夫なように結界の中の気温を高めた。自分が起きたら解けるようにと時限式の魔術を組み込んだ。


 寝転び、腕を伸ばした。いつものように小さな頭が乗っかってくる。ほどよい重みだが、一日中となるとしびれてしまう。


「フェル、ぎゅっとして欲しい」

「今日は甘えたい日なのか?」

「私はいつでも抱きしめてもらいたい」


 右腕で彼女の身体を覆い、背中に回した。少しだけ強めに抱きしめると「うー」という声が漏れた。


「苦しいか?」

「大丈夫。嬉しい」


 すると、彼女もフェルメールの胸に顔を埋めた。


「フェルの臭いがする。フェルの臭い好き」

「たまにそういうこというよな。さっきちょっとだけ水浴びしたと思うが。魔力を無駄にするわけにもいかないから長時間は無理だったけど」

「そういうのじゃない。別に汗臭いわけでもない。フェルの臭いがするだけだから」

「それがよくわからないんだが」

「私の臭いも嗅いで」

「どうやって?」

「こうやって」


 いきなり胸元を抜け出したかと思えば、今度は彼女の胸にフェルメールの頭が収まった。柔らかな感触が顔を包んだ。


「これでどう?」

「うーん。なんとなくわかったような気がする」

 布越しで呼吸をすると汗臭さの中に、仄かな甘い匂いが混じっていた。


 細い腰を抱きしめて更に顔を埋めた。形の良い乳房がぐにぐにと形を変え、そのた

びにいい匂いがする。頭を優しく撫でられながらそんなことをしていると、どうしようもない劣情を催した。


 白い太ももに手を這わせ、ワンピースの中に手を入れた。柔らかい肌を撫でながら徐々に上へと進んでいく。太ももから尻を触り、尻から腰へ、そして腹へ。


 ワンピース越しに乳房を舐め、乳首を口に含んだ。艶やかな吐息が彼女の口から漏れ、胸がどんどんと高鳴っていった。


 彼女を抱いた回数など覚えていない。拒否されたこともなく、満足しなかったこともない。彼女との身体の相性は、間違いなくいいと言える。


 恋人同士ではない。彼女の呪いを治すまではと約束した。


 ワンピースをたくし上げて腹に吸い付いた。汗で湿った柔肌がとても色っぽかった。


 形容し難い罪悪感と、惚けるほどの背徳感。そして頭の片隅にある後ろめたさを、欲情がすべて飲み込んでいった。


 スカーレットへと覆いかぶさり、半ば強引に動き出した。


 目を細め、彼女はそれを受け入れていた。右手の人差し指の爪を噛み、下を出して妖艶に笑った。


 フェルメールにはスカーレットしかいない。彼女を守るためにすべてを犠牲にし、彼女のために人生を捧げる覚悟を決めた。


 スカーレットにはフェルメールしかいない。彼に人生のすべてを委ね、それでいいのだと心のそこからそう思っている。


 こうして、二人きりの夜は更けていく。場所のことを考えれば、世界に二人きりというのも嘘ではなかった。こんな場所に人は来ない。


 ここでだけは、二人はただの二人きりだった。

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