第32話《美少女》


 あたしの名前は小島ハツナ。

 高校三年生の姉がいる高校一年生だ。

 お姉ちゃんはあたしが通う隣町の共学高校ではなく、同じ隣町にある偏差値の高い女子校に通っている。

 セーラーの制服が可愛いし、校舎や学食がオシャレなのもあって、県内ではかなり人気のある女子校だ。そのせいか顔面偏差値もやたら高い生徒が多いみたいで、お姉ちゃんレベルの美少女がゴロゴロいたりする。

 あたしもお姉ちゃんと同じ学校に通いたくて受験勉強頑張ったけど、結果がこのザマだ。


「そう? そんないいことないよ?」


 朝の電車内。

 吊革を持つお姉ちゃんがあたしにいった。


「なんか窮屈なことばっかだよ。思ったような華やかさとかほとんどないし」


「そうなの?」


「まぁ外面いい人多いからね。ハツナみたいにうちの高校憧れて入学する人多いみたいだし」


 電車が途中駅に止まった。

 車両の扉が開き、プラットフォームからお姉ちゃんと同じ制服を着た女子生徒が入ってきた。

 お姉ちゃんは笑顔をつくった。


「おはよー」


「あ、おはようございます。小島先輩」


 黒髪ロングの女子生徒。

 小顔で目が大きく、鼻が高くてまつ毛が長い。口紅を差したみたいに唇も赤くて、ほとんどすっぴんに近いのに品のある可愛いさがある。

 まさにお嬢様って感じだ。


「お知り合いですか?」


「妹のハツナだよ」


「どうも」


「初めまして。津山ハルといいます」


 やばい、可愛い。

 なんかこんなに可愛い子が目の前にいるとドキドキするな。

 でも。

 なんだろう。

 どこかで見たことのある顔だ。


「津山さんって、誰かに似てるっていわれない?」


「え? そうですか?」


 車両の中吊りポスターが目に入った。

 化粧品の広告。今話題の女優、桐崎美鈴がアップで映っている。

 そうだ。

 桐崎美鈴にそっくりだぞ、この子。


「えー、そんなことないですよー」


 頬に手を当ててハルがニコニコする。

 いや、見れば見るほどそっくりだ。

 本人かって聞きたくなるほど似ている。

 もしかして姉妹とか?


「そんなことないですよ。たまたま似ているだけですよー」


 電車が目的地の駅に着いた。

 あたしとお姉ちゃん、ハルの三人で改札を抜けた。


「すみません。友達が待ってるので」


 ぺこりとハルは会釈し、改札向こうに立っている同じ制服姿の友達の元に走っていった。

 友達もハルと同じく、黒髪ロングの清楚系だった。

 ん? あれ?

 なんか友達もハルに似てない?


「桐崎美鈴って、女子高生のなりたい顔ランキング一位だったよね。たしか」


 お姉ちゃんが呆れるようにつぶやいた。

 駅から続く通学路をお姉ちゃんと並んで歩く。

 お姉ちゃんと同じセーラー服の女子生徒たちが通学路を歩いている。

 みんな桐崎美鈴と同じ顔だった。


「今年のうちの一年生。ほぼ全員【蛆神様】にお願いしてこうなったみたい。おかげで見分けつかなくて困ってるのよね」


 お姉ちゃんがため息をついた。

 あたしたちの目の前に、桐崎美鈴と同じ顔な女の子たちがたくさん歩いている。


「ね? 外面いい人ばっかでしょ?」


 そうだね。

 あたしもそう思った。


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