第28話《スペシャル丼》


 あたしの名前は小島ハツナ。

 お昼休みで食堂を利用するのは、だいたいお母さんが体調悪くかつ自分もお弁当作るのさぼりたくなった時のみの高校一年生である。

 今日はトモミとミクも偶然お弁当ではないそうで、あたしたちは食堂でお昼をとることになった。

 できることなら、行きたくなかった。


「おばちゃん。ラーメンセット!」


 学校の有名人。三年生の小堺先輩が、いつものラーメンセットを頼んでいる。

 遠巻きから見てもわかるぐらいの巨漢。

 自然と小堺先輩の周りに人が離れていくが、本人はまったく気にした素振りを見せない。


「いやぁ、【蛆神様】にお願いしたことが願って、すげぇ昼休みが楽しみでさー」


 小堺先輩は食堂のおばちゃんに上機嫌で話しかけた。

 おばちゃんたちは「へぇ、そう」と冷たくあしらっている。


「はいよ。ラーメンセット」


 引き渡しカウンターに、醤油ラーメンとミニチャーハンが乗っかったトレーが置かれた。

 小堺先輩はそれを受け取ると、近くの席に座り、割り箸を割って勢いよくかきこんだ。

 ものの三分で皿がきれいになった。


「ふー! ほいじゃーもういっちょ!」


 小堺先輩は口を開け、喉の奥に指を突っ込んだ。


 げろげろげろげろ。


 黄褐色の小堺先輩の吐瀉物が、中華丼のふちいっぱいに満たされる。

 吐瀉物は湯気が立っており、酸っぱい匂いを発していた。


「さぁーって、スペシャル丼食うか! やっぱ最高だなー!《何回でも食えるようにしてくれ》ってお願いしたのって」


 丼ごと持ち上げ、小堺先輩は自分の吐き出した内容物をかきこんだ。

 それを見ていた女子生徒たちが、黙って食堂から出て行く。


「何にする?」


 カウンターに立つあたしに、おばちゃんが注文を訊ねてきた。


「ラーメンセット以外で」


 あたしはいった。

 トモミもミクも同じでと続けていった。

 小堺先輩は、もう一周スペシャル丼を作ると、満足そうに中華丼をかきこんでいた。


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