第40話矢張りパリジャン
一本目を灰にして、出ようかとおもったがもう一本吸い貯めておきたい気がして
パッケージから抜き火を着けた。
ライターをポケットへ戻したとき、携帯にかちゃりと当たってなんとなく携帯を出してみた。
時間は4時32分、不在着信はないようだが、メッセージアプリに「2」と赤い文字、
なんとなく開いてしまうと、臼井佐知子から。
どこに居るの?
22:50
何時になってもいいから、これをみたら連絡しなさい!
2:53
いま確認したことで既読が通知されてしまう。
どうするか迷って発信ボタンを押してみた。
3コールで出た。
「もしもし?」
若干寝ぼけ声、
「もしもしおれです。すみません。」
「あー、君、一体どこに行ってるのよ?
行方知れずになるから、ETCの利用明細で確認したわよ。」
やっぱり。
「いや、本当にすみません。四天王寺さんにどうしても旅の安全を祈願してから行きたかったんです。
それに途中で道を間違えて、気がついたら能登まで来ていたというオチです。」
「まぁ割とすぐ関西から出てくれたみたいだからいいけれど。本当に心配したわよ。
旅の安全祈願なら、粟田(あわだ)神社に行けばよかったのに。
わざわざ四天王寺くんだりまで行かなくったって。
美沙ちゃんと駆け落ちでもするんじゃないかと思って。」
乾いて笑っていやがる。
「そ、そんなこと。でも命令には背いているわけではないでしょ?どうです?見込んだだけの男でしょ?」
「はいはい。夜更かしはお肌によくないから寝ようと思っていたのにどうも心配で眠れなかったのよ?
この気持ち、わかってくれないのね?
まぁ、いいわよ。所詮わたしは二番目の女ですから。」
なんだ?色ボケの電話か?
耳から離して、切ってやろうかとおもったけれど思いとどまる。
「で?用件はなんです?安否確認ですか?」
「そう、安否確認ってところね。」
「社長、明日は出張しないんですか?」
「それやめてよ、佐知子さんって呼んでよ。臼井さんでもいいけど。」
「んん、あー、」
咳払い、
「明日は事務所で書類仕事の予定よ。ってもう今日だけれど。」
「で、ぼくはいつまでここに潜んでればいいんですかね?」
「そうそう!君!聞いてよ?」
「なんです?」
「昨日、名古屋で突然、生理になっちゃって・・・わたし結構長いから。」
「はぁ、」
「多めにみて10日は空けてくれないと帰ってきてもできないわ。」
「はいはい、わかりました!」
アホらしっ!
「あっ、それと車の件ですけれど、なんか色々お手をわずらわせてしまったみたいで
すみませんでした。」
「あー、ボロクソワーゲン、あっ、失礼、君の大事なワーゲンのことね。
まぁ、君を色々と巻き込んでしまって悪かったと思うし、せめてもの恩返しと思っていただければ。」
恩着せがましい!
「恩に着ます。」
堪えた。
「それじゃあ、また何かあれば連絡させてもらいます。出張の疲れをゆっくり癒してくださいね。
おやすみなさい。」
返事を聞く前に耳から離し、5秒半待ってから切った。
なんだろう、この無駄な時間をすごしてしまった感は。
タバコなんて吸いに来るもんじゃなかった。
いそいそとタバコ室を出て、再度うるさいエレベーターで1階分あがる。
エレベーターの壁に「アンケートご協力のお願い」の張り紙、
部屋のテーブルに備え付けの用紙にご記入ください。
抽選でクオカードを差し上げますとのこと、これはエレベーター音声案内問題を指摘しよう、強くそう思った。
412号室のドアを開け、ドンディスの札を掛けてから中に入ると、ゴォゴォー!イビキ!
タバコ2本分の時間を無駄にするなら一緒に寝ればよかった。
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