あやかし古物喫茶

淡雪こあめ

葉月の願い

第1話

 殺風景でこじんまりとした住宅街。

 そこには一件のお店が建っている。

 看板には古物店と書かれ、お店の名はMana。窓ガラスから中を覗いてみると古びた外見からは想像つかないほどアンティーク感漂うお洒落なお店だ。こじまんりとしながらも落ち着いた間接照明の明かり。まるで喫茶店かと思わせるテーブルの配置。棚や窓ガラス付近には古そうな品が置かれている。新品のような美しさを魅了せて、思わず立ち止まって恍惚こうこつと見入ってしまうだろう。

 そんな店内には耽溺たんできするほどの容姿を持つ青年がカウンター席に座っていた。艶やかな紫色の短髪に赤紫色の瞳。物静かで落ち着き、どこかクールで素っ気ない印象を与える。

 

 「ねぇ、八尋やひろ。このお店、たまにしかお客さんが来ないのだけれど色々と大丈夫なのかい?」

 

 外見は素っ気なくクールな印象を与えているが必ずしも性格と外見が同じとは限らない。もちろん、外見通りの人も居ればそうではない人もいる。彼は後者だったというわけだ。

 口調は柔らかく、クールな印象とは程遠い。その違いに心を動かされる人も少なくはないだろう。

 

 「大丈夫です。……資金援助してくれる人達がいるで」

 

 八尋と呼ばれた青年はソファに横たわっており、頭から被っていた毛布を少し下げ、むくりと顔を出して答えた。眠そうなタレ目は数回瞬きをし、声は掠れていたが静かな店内ではよく聞こえ、青年の耳にもすんなりと聞こえていた。

 八尋と呼ばれた青年は濃い海のような色をした髪が、寝癖なのか跳ねていた。それを直す素振りも見せず、少し下げていた毛布を再び頭から被る。

 

 「それは初耳だよ。……そういうことはもっと早く話してもらわないと……ってこらっ! そこで寝てはだめだと、──はぁ、まったく」

 

 八尋が再び寝る体勢に入るところをやんわりと注意する。

 そんな何気ない光景を微笑ましく眺めている者がいる。このお店の中には三人の人影ある。一人目はカウンターに座っている青年。二人目は客用のソファに横たわっている青年。そして、三人目はテーブルに座ってその光景を微笑ましく眺めている女性だ。

 

 「僕がどこで寝ようが僕の勝手です。、店番宜しくお願いします」

 

 真っ赤な和装を着、天狗と呼ばれた青年はため息をついた。

 

 「むぅー、私はー?」

 「美代みよは僕とお昼寝です」

 

 毛布から顔を出し、両手を美代の方へ伸ばす。

 それはおいでと言ってるようで美代ははにかみ、八尋の元へ行く。 

 

 「むふふ、八尋~」

 

 美代が腕の中に収まると、八尋は美代の肩に頭を埋める。

 幸せのように美代は微笑み、八尋の頭を撫でた。

 幸せオーラ全開の二人を見て、この差は何なのだろうかと和装を着た青年は苦笑する。それから何かを思い出したかのように手をぽんと叩く。

 

 「そういえば……この前、二人の幽霊がオレのところに来たよ」

 

 美代を抱きしめている八尋がピクリと反応をする。

 美代も二人の幽霊の話が気になるのか、ちらほらと話の続きはまだかと見ていた。

 幽霊という単語に興味を示さないものはいないだろう。大小は異なるけれど一度は興味を持つはず。それほどの神秘的あるいは幻想的な響きを持つ。

 

 「それで、その幽霊二人はどうしたのですか?」

 

 美代の肩に頭を乗せたままくぐもった声が発せられる。

 八尋はその幽霊がどうなったのかを知りたかった。

 

 「安全な場所があったら教えて欲しいと聞かれたのでね、例の場所を教えてあげたよ」

 

 美代がこつんと頭を傾げた。それからふと確認するように言葉を紡ぐ。

 

 「例の場所って十字架が飾れられている……教会ってところ?」

 「そうだよ」

 

 和服の青年が肯定すると美代はふふと微笑んだ。

 八尋が上半身を起こすと、美代は八尋の上からどき、八尋はソファに座り直し、隣に美代がかけ座る。

 瞬きを数回し、八尋は顎に手を当て、口を開く。

 

 「教会、ですか。ところで他には何かをありませんでしたか? ──ちなみにお名前とかは?」

 

 いつもは興味無さそうに話を聞いている八尋が積極的に聞く姿勢に和服の青年は不信感を抱く。もしやと眉間に皺を寄せて難しい顔付きで問う。

 

 「ねぇ、まさかだと思うけど……強制的にあの二人を客にするとか……言わないよね?」

 「妄想は大概たいがいにしてください」

 

 きっぱりとそう言い切った八尋に美代は加勢して「そうだー! そうだー! 八尋はそんな人じゃない」と口を開く。

 少し熱くなったのか八尋は白いワイシャツの袖を巻く。八尋の服装は先程の白いワイシャツに紺色のベストを着用し、黒いズボンを履いていた。深海を写し出しているかのような髪の毛の合間から黒いピアスがキラリと光りその存在を顕にした。大人しそうないかにも勉強できますよ感溢れる印象に黒いピアスというのもまた差異が出て好感が持てるのではないのだろうか。

 八尋の視線の先には紫色の短髪で赤い和服を優雅に着こなしている青年がカウンター席に座りにこやかに微笑んでいた。……否、苦笑いと言った方が正しいのかもしれない。

 和服の青年から視線を外し、隣にいる愛おしい美代を見、微笑みながら美代の頭を撫でる。

 美代は気持ちよさそうに目を閉じ、八尋の肩に寄りかかる。

 そんな二人を見て和服の青年は先程の辛辣な言葉を思い浮かべながら、相変わらずきっぱりと言うなぁと心の中で呟く。彼と過ごした日々が頭の片隅で走馬灯のように張り巡らせる。良くも悪くも事実だけを述べる彼と最初に過ごした時は苦労したなぁと思い出に浸かる。最初はなんて冷たい人なんだろうかと思ったが今では彼なりの優しさだということに気付かされた。八尋と過ごしていくうちに分かったことは彼は嘘をつかないということ。それがかえって冷たいと印象付ける原因にもなるがそれはそれで仕方がない。八尋はお人好しで嘘をつかず、それでいて遠慮がない。

 和服を着ている青年は目の前で美代と戯れあっている八尋を見て優しく微笑んだ。

 

 「なぜ笑っているのだ! 天狗ぅ!」

 

 眉を寄せ頬を膨らませる美代。

 

 「ふふ、八尋との思い出を振り返って昔は苦労したなぁと……ね」

 「む? なぜ? 天狗は別に苦労することはないであろう? 八尋は昔から優しいしなぁ」


 美代はえへへと八尋の顔を見て笑う。

  

 「うーん、……最初はその優しさに気づかなかったから苦労したんだよ」

 「ふーん?」

 

 いまいち納得のいかない顔をしている美代は八尋の顔と天狗と呼ばれる青年の顔を交互に見てから、腕を組んで首を傾げ、

 

 「……解せぬ」

 

 と呟いた。

 八尋はカウンター席に座っている青年を捉え、

 

 「妄想にかるのは良いですが、先程の話を最後まで話してから妄想にひたしてください」

 

 と言った。

 八尋の辛辣しんらつな言葉を微笑みで返し、

 

 「ふふ、ごめんよ。八尋との思い出が眩しくてね」

 

 穏やかに返答する。

 

 「……それで、幽霊の名前は?」

 「確か……」

  

 八尋の質問に青年は思い出すように記憶の糸を引っ張る。姿、顔、声と散りばめられたパズルをはめていくように思い出す。

 

 「……よしこ」

 

 記憶の糸を辿ってついた先で青年はぽつりと独り言のように言葉にする。

 

 「……と、という名の幽霊だったよ」

 

 ハッキリと思い出したように瞬きをする。

 

 「他には?」

 

 八尋は食い入るように聞く。

 美代も耳は傾けているようで、大人しく言葉の続きを待っていた。

 

 「二人は夫婦で、と言っていたよ」

 

 夫婦の幽霊と娘。

 死後、離れ離れとなり、もう一度会うために探しているのだろうと推測する。

 もし、その幽霊がこの店へとやって来ていれば彼らの願いを叶えるだろうと頭の片隅で頷く。来なければ願いを叶える道理もないため救う必要はないだろうと思いを廻らせる。

 

 「そうですか……」

 

 眉を寄せて返答する八尋を見た青年と美代は首を傾げる。

 美代はさも当たり前のようにこう言った。

 

 「助けないの?」

 「えぇ、このお店に来ないのならば助けません。もし……来るというのであれば別ですが」

 

 その言葉に美代の顔は見る見るうちに明るくなっていき、頬を上げながら、

 

 「もし来たのなら助ける?」

 

 目を伏せ、優しく微笑んだ八尋は当然の如くこう述べる。

 

 「えぇ、このお店に来た時点で助ける以外の選択肢、僕にはありませんから」

 

 あぁ、八尋は優しくてオレよりもお人好しだなぁと和服を来た青年は優しい顔をしながら頷く。

 いつもは眠そうな瞳をしているのにこういう話になるとがらりと目の色が変わり瞳の奥がキラリと光る。その瞳で話で話をすると彼の言葉に力が入り、説得力を生み出す。それはオレが彼を知っているからか、はたまた無意識に惹かれているのかは定かではないけれど恐らくオレはその両方なんだなと青年は思った。

 

 「ねー、八尋。このお店全然人が来ないけど本当に大丈夫なのか?」

 

 美代がふと思いつき、この店の扉へと視線を向ける。和服の青年も伏せ目がちにお店の入口を見入り、苦笑しながらも八尋もお店の入口を眺めるが直ぐに視線を外し目を伏せた。

 それから数時間経ってもお客さんは来なかった。古物店と言えどそんな毎回も客が来ることはない。

 

 「八尋、本当に大丈夫なのか? ちょっと心配になってきたぞぅ」

 「大丈夫ですよ。ネットで出品とかしてますので」

 「おぉ! それなら大丈夫そう!」

 

 「それにしても八尋は凄いなぁー」と美代は言う。けれど青年は苦笑いをしながらこう述べる。

 

 「副業を増やさないかい? 古物店では些か不安な気がする」

 

 副業と聞いてパァと表情を明るくし興味を示す美代。それに対して八尋は表情を曇らせながらも心の中では確かにと頷いていた。資金援助があるとしてもそれは限度がある。自分たちで自由に使えるお金はあっても損はしないだろうし遠出に行く際もお金はそこそこ必要となる。

 

 「……何か案はありますか?」

 

 客用のソファで渋い顔をしている八尋に若干呆れつつもお店の今後についてを考えるのが優先だと思いオレらでも出来ることがないかと青年は思考を巡らせる。

 

 「うーん、……あっ!」


 ぽんと何か閃いた青年は名案だと言わんばかりの顔で口を開く。

 

 「神社やお寺と協力して幽霊や妖怪に取り憑かれた人を祓うとかってどうかい?」 

 

 八尋が口を引く前に美代の目がキラリと光り面白そうだと言った。

 青年もまた「うんうん、そうだよね」と言いながら肯定する。

 

 「それだと本業とそんなに変わらないから良いと思うぞ!」


 「名案! 名案!」と言いながら美代は笑った。

 

 「そもそも神社やお寺ではお祓いができるでしょう」

 「むぅー、確かに!」 

 

 的確な指摘青年は項垂れた。それどころか美代にまで言われてしまい、名案だと思っていた案が簡単に敗れる。けれどそれで落ち込むことはなくむしろ次の案をすぐに思いつく。

 

 「じゃあ、悪魔祓いとかどうかな!? 神社やお寺と協力して戦うなんて面白そうじゃないかい?」

 「おぉ! なんかよく分からないけど面白そう!」

 

 美代の言葉に青年は苦笑する。

 

 「はぁ、それも却下です。そもそも悪魔祓いはキリスト教でしょう。神社は神道、お寺は仏教です。主教関係は争いが起こる可能性があるため許可しません。それに紫月しづきは争いが嫌いでしょう」

 「争うのはオレではないよ」

 

 と紫月は言った。

 どうやら青年は紫月と言う名前らしい。紫の月だなんて不吉なのか神秘的なのか意見が真っ二つに割れそうだ。

 

 「八尋! 私あれやりたい!」

 

 美代がぱっと何かを思い出し、八尋に伝える。

 

 「……?」 

 「あれだよ! えっと、なんだっけ……、あっ! そうだそうだ! パンケーキ売ってるお店で、注文したら店内で食べれるやつ!」

 「あぁ……あの時の、ですか?」

 

 美代の言いたいことを記憶から引っ張れば該当するものが出て一様確認する。

 

 「そうそう!」

 

 満面の笑みで美代は微笑むものだから八尋は少しそっぽを向く。

 目を丸くし不思議そうに眺める紫月は何のことだろうかと首を傾げる。

 

 「オレにも教えてくれないかい?」

 「うむうむ! 甘い物が食べれるのだ!」

 

 二人の会話に苦笑いし未だに頭上ではてなマークを浮かべてる紫月に助け舟を出す。

 

 「喫茶店ですよ」

 「あぁ! 喫茶店か。それなら確かに出来るかもしれないね」

 「むふふ」

 

 八尋も喫茶店ならばいけるかもしれないと考え何より美代からの申し出なので実現したいと心の中で思った。

 

 「すぐにとは出来ませんが出来るようにしましょう。メニューの案も考えるだけ考えてみましょう」

 

 と前向き検討する。

 

 「ふふ、楽しみだなぁ!」

 

 美代は八尋と紫月の三人で喫茶店で働いている所を想像して早くそうならないかなと思った。

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