第6話 ジュリアの店

 今日は何を食べるというのだろう。どうせまたいつもと同じオムレツか子牛の赤ワインの煮込みに決まっている。或いは今日は魚のソテーを食べたいと言うかしら?そして、赤ワインを殆どボトル一本飲んでしまう。パンが大好きで、ほかほかに温めたパンがテーブルに出されると、あっと言う間に食べてしまう。私の分を残しておこうなんて、考えたこともないのだろう。だから、最近では最初から自分のパンを注文する。いつものジュリアが料理を作って、私たちはまたそれを食べる。

 

 ジュリアの店は、童話に出てくる家のように歪んでいる。小人が木の枠で作った家。小さな窓からは、ランプの明かりが漏れている。

私たちは、小さなドアを開けて店に入った。相変わらずあまり客は入っていない。片隅のテーブルに腰を降ろした。

 メニューを見ることもなく、彼は子牛の赤ワインの煮込みを注文した。私は魚のソテー。

 ジュリアは、私たちにゆったりした微笑みで応じた。半年前に始めてジュリアを見た時から、また少しふっくらしたみたいね。丸顔でくりくりした瞳。床を鳴らしながらジュリアは厨房の奥へと消えて行った。


 私は目の前の彼を見た。彼は、何を考えているのか私にはいつも分からない。少し目を伏せているが、その目がきらきらしていることは私にも分かる。優しくて穏やかなその表情は、いつも変わることはない。

「昨日は、街に出て仕事をしてきたよ。」

彼の言う街とは、人がお酒を飲む場所のこと。今居る場所だって街なのに、彼にとっての区別があるのだろう。

「どんな仕事なの?」

「昨日はジャズクラブの仕事。ジャズを演奏したんだ。」

「そうなの。楽しかった?」

「ああ。まあね。」

 彼は子どもの頃からクラシックを勉強してきたので、まさかジャズを演奏するようになるなどとは思っていなかったらしい。しかしここ最近では、仕事が入るとジャズピアノを弾いている。評判はなかなかのもので、そのことについて本人から感想を聞いたことはない。

「私も今度聴きにいこうかな?」

「ああ、来るといい。」

彼は、窓の外を見ながらそう答えた。


 どうしてこの人は、私の顔をあまり見ないのだろう。いつも下を向くかそっぽを見て私と会話する。照れているのか、私にあまり興味がないのか不思議なくらいに私には彼の気持ちをつかむことが出来ない。私が家を訪れることも何も言わないのだ。






               


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