花ちるや名もなき蝶の片羽舞ふ

 はなちるやもなきてふ片羽かたは


【季語】

 花ちる(春)


【語釈】

 片羽――対になった羽のかたほう。


【大意】

 名もない蝶の羽のかたほうが舞い落ちるように(桜の)花が散ってゆくのであった。


【補説】

 スタジオジブリの高畑勲監督のアニメ映画「かぐや姫の物語」を見ているときに作った。守武もりたけ(1473-1549)の「落花枝にかへると見れば胡蝶かな」を裏返したような趣向。


【参考句】

 散る花を南無阿弥陀仏とゆふべ哉 守武

 やまざくらちるや小川の水車 智月ちげつ

 ちるはなや鳥も驚く琴の塵 芭蕉

 花散るや伽藍がらんくるるおとし行く 凡兆ぼんちょう

 苗代の水に散り浮く桜かな 許六

 水鳥の胸に分けゆく桜かな 浪化ろうか

 蒲団ふとんまく朝の寒さや花の雪 園女そのめ

 鶴の巣や日は入りはてて散るさくら 汶村ぶんそん

 花散りて木の間の寺となりにけり 蕪村ぶそん

 廿はたとせの小町が眉に落花かな 几董きとう

 散りがての花よりもろきなみだ哉 一茶

 木兎みみづくつらはらしたる落花哉 同

 打払ふ鎧の袖や花吹雪 井月せいげつ

 世を忍ぶ男姿や花吹雪 夏目漱石

 流れ込む温泉壷ゆつぼの中の落花哉 寺田寅彦


 山は朝日薄花桜紅鷺ときの羽 素堂そどう

 淋しさや花のあたりの翌檜あすならう 芭蕉

 花にあそぶ虻なくらひそ友雀 同

 四方よもよりの花吹き入れてにほの海 同

 肌のよき石に眠らん花の山 路通ろつう

 樹の奥に滝の音して花や咲く 鬼貫おにつら

 死んだとも留守とも知れず庵の花 丈草じょうそう

 木啄きつつきや枯木をさがす花の中 同

 雲を呑みて花を吐くなるよしの山 蕪村

 花に暮れて我家遠き野道かな 同

 月光西にわたれば花影東に歩むかな 同

 浪の間はさくらうぐひや岸の花 青蘿せいら

 百花咲いてかなしび起るゆうべ哉 几董きとう

 花の木に鶏寝るや浅草寺せんさうじ 一茶

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