我死すと聞くこがらしの噂かな

 われすとくこがらしのうはさかな


【季語】

 こがらし(冬)


【大意】

 私が死んだと、風の噂ならぬこがらしの噂に聞くのであった。


【補説】

 噂のあてにならないことをいった。死んで霊魂になった詠み手が自分の噂を耳にしているケースも考えられそうだ。


【参考句】

こがらしの果はありけり海の音 言水ごんすい

木枯こがらしに岩吹とがる杉間かな 芭蕉

こがらしや頬腫ほゝばれ痛む人の顔 同

凩の遠樹に枝を見つるかな 尚白しょうはく

木枯の地にも落さぬしぐれ哉 去来きょらい

木がらしの空見直すや鶴のこゑ 同

凩やつるぎを振ふ砺浪山となみやま 同

凩の分別ふんべつもなし香の筋 介我かいが

木がらしの吹き行くうしろ姿かな 嵐雪らんせつ

木がらしに梢の柿の名残かな 同

こがらしの里はかさほすしぐれ哉 一笑いっしょう

凩やとびの巣落すみそさゞい 同

凩や廊下のしたの村すゞめ 凡兆ぼんちょう

こがらしの落葉にやぶる小ゆび哉 杜国とこく

凩となりぬ蝸牛くわぎうのうつせ貝 其角きかく

凩に氷るけしきや狐の尾 同

凩のあたり処や瘤柳こぶやなぎ 丈草じょうそう

木枯や片店おろす町通り 浪化ろうか

凩や喪を終る日の袖の上 史邦ふみくに

木枯や苅田かりたあぜ鉄気水かなけみづ 惟然いぜん

木枯の更行かたや蝋だまり 基継きけい

こがらしの雲より落る木の葉哉 左次さじ

凩に吹れてたつやかゞみ山 北枝ほくし

木枯や更け行く夜半の猫の耳 同

凩や里に近よる猿のこゑ 桃妖とうよう

凩や箱根の海の陰陽かげひなた 東鷲とうしゅう

こがらしや梢に残る蝉のから 十丈じゅうじょう

こがらしの表吹けり青あらし 蘆文ろぶん

凩や北より動く馬の耳 宋屋そうおく

凩の側から作る木の芽かな 存義そんぎ

木がらしや岩に寝て見る夕鴉 也有やゆう

木がらしや竹にも動く鳥の夢 同

凩や馬の尾をふくわたし舟 同

木がらしの箱根に澄むや伊豆の海 太祇たいぎ

こがらしや手にみママむるおいしは 同

ぬれ色を凩吹くや水車 同

凩にえら吹るゝやかぎの魚 蕪村

凩やいしぶみをよむ僧一人 同

凩や覗いてぐる淵の色 同

こがらしと揉合もみあふ松の響きかな 嘯山しょうざん

木がらしや西山浅く夕付く日 闌更らんこう

こがらしや滝吹きわけて岩の肩 召波しょうは

木枯や硫黄流るゝ石河原 五明ごめい

凩や障子の弓のかへる音 大魯たいろ

こがらしやつに裂けたる千曲川ちくまがは 几董きとう

凩や身ごもる犬の眼に涙 蛾眉がび

凩や鵜にせがまるゝ宵の宿 士朗しろう

凩や川吹もどすさゝら波 百池ひゃくち

凩や猪の来てふむ背戸の芝 蒼虬そうきゅう

木がらしや壁の際なる馬の桶 一茶

木がらしやこんにやく桶の星月夜 同

こがらしに月は残て夜明かな 諷竹ふうちく

凩も誘ひあはすや墓まいり 同

こがらしや波の上なる佐渡ヶ島 伊藤松宇

凩や馬に物言ふ戻り道 二葉亭四迷

凩や海に夕日を吹き落す 夏目漱石

凩の上に物なき月夜哉 同

凩夜を荒れて虚空火を見る浅間山 正岡子規

凩の中より月ののぼりけり 同

木枯に月も動くや波のかげ 同

凩の明家あきやを猫のより処 同

凩にふぐひつさげて高足駄たかあしだ 泉鏡花

木がらしや目刺にのこる海の色 芥川龍之介

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る