躑躅して咲埋めけり川の空

 躑躅つゝじして咲埋さきうづめけりかはそら


【季語】

 躑躅(春)――『花火草はなひぐさ』(1636年刊)に所出の由


【大意】

 つつじの花を咲かせて、川の上空を埋め尽くすのであった。


【補説】

 題して「川の上に鯉幟こひのぼり数多あまた泳げるを見て詠める」。


 この句は説明を加えなければなんのことかわからないだろう。川の上に大量のこいのぼりが泳いでいるのを見た体で詠んだものと思ってもらいたい。こいのぼりをつつじの花になぞらえたわけだがすこしくるしいだろうか。最近では端午の節句も新暦で祝うことが多いだろうから、つつじの見頃にこいのぼりの泳いでいることはよくあるかと想像する。


 つつじとさつきはよく似ており、「さつき」は「さつきつつじ」の略である由。さつきもつつじの一種だが、つつじは概ね四月、さつきは五月頃に咲き、つつじは花が咲いてから葉をつけるが、さつきは葉をつけてから花を咲かせる点で区別できる由。


【参考句】

 岩躑躅染むる涙やほととぎ 芭蕉

 山つつじ海に見よとや夕日影 智月ちげつ

 つゝじ咲て片山里の飯白し 蕪村

 大文字だいもじ谿間たにまのつゝじ燃んとす 同

 谷川に朱を流して躑躅かな 村上鬼城むらかみきじょう

 紫の映山紅つゝじとなりぬ夕月夜 泉鏡花


 若葉して御めの雫ぬぐはばや 芭蕉 

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