のどかさに虻の飛込む和室哉

 のどかさにあぶ飛込とびこ和室わしつかな


〔季語〕

 のどかさ(春)


〔語釈〕

「虻」も春の季語。


〔大意〕

 のどかさの中にあって、和室に虻が飛びこんでくるのであった。


〔補説〕

 私はへいきで季重きがさなり(一句のうちに複数の季語を入れること)を犯すタイプなのだが、虻の句の場合は人の作品を見てもかなりの割合で他の季語と取り合わされているように見える。


 芭蕉(1644-1694)の手になる、「花にあそぶ虻なくらひそ友雀」という句を読んで以来、蝶にまさるともおとらず虻が春ののどかな雰囲気に調和するように感じている。とはいえ、室内に入ってきたらやはり驚くだろうと思う。


〔参考句〕

 草枕あぶを押へて寝覚めけり 路通ろつう

 この虻をたばこでがすけぶり哉 其角きかく

 海棠かいだうや虻のまぶたの重き時 酒堂しゃどう

 永き日や太鼓のうらの虻の音 浪化ろうか

 虻の影障子にとまる小春かな 也有やゆう

 静さや花の昼間に虻の声 麦水ばくすい

 山道の案内顔や虻がとぶ 一茶

 ぶんぶんと虻の舞ひこむ馬の耳 正岡子規

 虻の影障子にうなる日永かな 同

 虻飛んで蜜柑の花のこぼれけり 同

 落ちさまに虻を伏せたる椿哉 夏目漱石

 虻飛んで一大円をゑがきけり 村上鬼城

 虻飛んで栗の花散る小道哉 寺田寅彦

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