第203話お母さん! 母と魔女⑥

______客室______


「ふう~。やっと落ち着ける」


8畳ほどの空間には机とベッドがあり、簡易宿泊所のようにがらんどうな空間。

机や窓の桟には埃が溜まっており、長年使われていないことが窺えた。

このような大きな洋館であれば、給仕のようなものがいるのが相場だが、曾爺さんは偏屈な人で見内以外に外部の人間と関わる事を嫌っていたと曾爺さんの孫にあたる俺の母親に聞いたことがある。

まあ、確かに、曾孫である俺が来てもニコリともしないしな。


「......」


それにしても、曾爺さんにもブラックのような力があったなんて。

曾爺さんを介して垣間見たあの映像は曾爺さんの記憶。

あれは一体、なんだったのか。

記憶の中にいたレインという幼女。

確か、ブラックもその名を言っていた。


「分からん」


ブラックが来て、俺を異世界に連れ戻そうとしている。

何故、俺が異世界に戻らなきゃならんのか。

何故、俺の記憶が消失してしまったのか。

頭の中ではちょっとした交通渋滞が起きている。


______コンコン。


「ん? 誰だ?」


悶々としていると、部屋のドアが叩かれ。


「私よ~」


とブラックが扉越しに返答した。

ブラックは俺の部屋に入ろうとしている。

俺は、「今、開ける」とベッドから腰を上げた。


ブラックは先程と変わらずにニコニコ顔。

俺の部屋を見渡し、ベッドに腰掛け、俺は埃被った窓枠に身体を預ける。


「まさか、こんな所で古い知り合いに会うなんてね~」


「記憶の中でブラックは曾爺さんに対して、魔力回路を開設したって言ってたよな? 曾爺さんの不思議な力は、ブラックが与えたのか?」


「そうよ~。正確には、魔力回路を与え、大剣ブラスを身体に埋め込んだからよ~」


「身体に埋め込む?」


「ええ。大剣ブラスは実態を持たない剣。宿主が死んだらまた別に行って、生き続けているのよ~」


「そうか。で、何の用だ?」


ブラックは談笑をしにきたのか?

ベッドの上に座るブラックの谷間を凝視しながら俺はブラックが部屋に来た目的について問う。


「もう一度確認するけど、どうしてこの場所にあなたは来たの~?」


「物件を見てこいって依頼されたからだよ」


「それはここがあなたの曾爺さんが住んでいた場所だと知っていたのかしら~?」


「知る訳ないだろ。で、何が言いたいんだ?」


「ちょっと、偶然が重なり過ぎているのよね~」


ブラックはスッと立上り、俺と目線を合わせる。


「......まぁ、そうだな」


曾爺さんの家に俺が来た事もそうだが、たまたまブラックを連れており、ブラックが魔法を使った事により曾爺さんと遭遇出来た事も偶然の一言で済ませて良いものなのだろうか。


「私はこの状況を生み出した者がいると踏んでいるわ~。恐らく、そいつは何かしらの異能の力を持っているわ~」


「異能? ブラックや曾爺さんと同じって事か?」


「えぇ。それか、全く別の力ね~」


「その能力者のアテはあるのか?」


「いいえ。ただ、あなたや私をこの世界に閉じ込めておきたい人物の仕業である事は間違いないわ~」


「俺やブラックを閉じ込める? ......あれ? そういや、俺達、元の世界に戻れるんだよな?」


ブラックの言葉に不安を感じ、ブラックに問いかけると。


「それが何度やってもダメなのよ~。ここは魔法が使えないみたいね~」


「な、なに!?」


ブラックは右手を開いたり、閉じたりし、手から何も出ないというジェスチャーを見せる。


「戻れないって!? ここで一生過ごすのか!?」


「そうなるわね~」


ブラックはあっけらかんと答える。

おいおい。

冗談じゃない。

折角、異世界から戻れたって言うのに今度は現実世界の過去に囚われたってのか!?

俺の人生、色々ありすぎだろ!?


「戻れる方法は!? 何か無いのか!?」


必死さをアピールするフリをし、ブラックの肩を掴んでソフトセクハラを行うとブラックは「う~ん」と考える素振りをし。


「この状況を作り出した能力者がいるはずよ~。そいつを特定し、解除して貰えば良いと思うわ~」と。


やっぱ、それしかないよな~。

と思うようなテンプレ打開策を提示してきた。


っうか、この状況を作れる奴なんて一人しかいないだろ。


「よし。じゃあ、一階に行こう」


俺はブラックの手を引き、一階にいる能力者候補者の元に向かった。

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