第187話お母さん! エンデバー号
「シルフに何をしたぁぁぁ!!!」
つい先日まで笑顔を見せていたシルフの青い瞳は色が失われ、赤色の月が異形な形に姿を変えたシルフを照らした。
シルフは俺たちが現れた事に対して表情を変えることなく、まるで蝋人形のようにオッサンの横に寄り添う。
「おいおい。そんな感情を剥き出しにするなって、俺がやったっていう証拠もないだろ? まぁ、実際、俺がやったんだけどな! ガハハハ!」
「こいつ! 殺してやる!!!」
オッサンの態度に感情を抑えきれなかった俺はオッサンを殴ろうと地面を勢い良く蹴った。
「おー! 威勢が良いのは結構だけどなっ!」
オッサンが指をパチンと叩くとシルフの腕に寄生した木のツルが勢い良く伸び、俺の腹を殴打。
ノーガードの腹に強烈な一打を受けた事で口から吐瀉物を吐き出し、膝をつく。
「よくもシルフや花島を!!!」
俺という屍を超えるようにホワイトが後に続く。
ホワイトには異能を打ち消す力がある。
オッサンの力は不明だがホワイトであれば太刀打ち出来るだろうと期待を抱きながらホワイトの背中を見守るが。
「確か、天力と弱い魔法を弾く能力を持っていたな。なら......」
オッサンはホワイトに向かって白い魔石をかざしながら呪文を詠唱。
白い魔石からツララのような鋭利な氷の塊が出現し、突進するホワイトの筋肉質な右足を貫通させ、ホワイトは前のめりで倒れ込んだ。
「ぐっ! マモル!!!」
血を吐くような声を上げながらオッサンを睨みつけるホワイト。
「今、俺が出したのは上級魔法だ。低能な魔法しか無効化出来ないお前の能力じゃ消す事は出来ない」
再び、不敵に笑みを浮かべるオッサン。
「む、無理だ。い、今の俺達じゃ太刀打ちできない......」
「だけどやるしかないだろうが! 二人が捕らえられて、シルフがあんな状態にされたんだぞ!」
「で、でも......」
弱気なホワイトの兄と口論をしていると、オッサンは強者の余裕からか大きな口を開けて豪快に笑う。
「ガハハハッ! その巨人の男の言う通りだ。お前らの力じゃ俺は倒せん。天力を無効化する巨人の娘もそのザマだしな!」
「天力......」
オッサンは上機嫌になっているのか、今まで謎とされていたオッサンの力の正体についてポロッと口を滑らした。
恐らく、レイスの話しの中にあった”魔法に対抗出来る力”という認識で合っているのだろう。
何故、このオッサンがその失われた力を保有しているのか見当も付かない。
それにオッサンの力の正体がある程度分かったとしても、オッサンに対抗する術を持ち合わせていなかった。
「ど、どうしてシルフをそんな姿にしたの? シルフはあなたに好意を抱いていたじゃない......」
ツララが足に刺さり、苦痛に顔を歪めながらもホワイトは弱々しい声でオッサンに問いを投げかける。
「そんな姿にした? これはシルフが自ら選んだ道だ。シルフは魔王を復活させる為の人柱になる事を自ら選択した」
「あ!? 魔王復活!? 人柱!? お前! 良く分からんような事言っているんじゃねえぞ!」
「ギャアギャア騒ぐなよ青年。目的を忘れたのか?」
「一体、何を言っているんだ?」
オッサンは首を傾げながら。
「何って? 俺達は地球を救う為にこの世界に送りこまれたんだろ?」
「地球を救う? どうして? 俺は気づいたらこの世界に飛ばされていて......」
「......気付いたらここに飛ばされていた?」
オッサンはまるで狐につままれたような顔でこちらを見やる。
「あ、あぁ」
「お前、この世界に来たのは地球時間でいつだ?」
「そんな事聞いてどうする」
「いいから答えろ」
「......確か、2016年8月15日だ。朝出る前にニュースで終戦がどうとか言ってたからな。それが一体なんなんだ?」
「俺たちがこの世界を出発する一年前......。まだ、エンデバー号は完璧には完成していないはずだ」
オッサンはボソボソと独り言を言い始める。
エンデバー号。
俺はオッサンの口からその言葉を聞き、それが何かやっと思い出した。
「エンデバー号。確か、ニュースで言ってた。宇宙船の名前だ......」
「それは表向きだ。実際、エンデバー号は宇宙船ではない。異世界に行く為の多次元移動装置の略称だ」
「異世界に行く?」
「そうだ。お前、本当に何も知らないのか?」
「さっきからそう言っているだろ!」
「......だろうな。もし、知っていれば俺を止める事もしないだろう」
「あ!? シルフよりも大切な事なんてある訳ないだろ!」
「......地球が滅びるって聞いてもその気持ちは変わらないか?」
「あぁ! 地球が滅びるって聞いて______今、何て言った?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます