第186話お母さん! 色のない瞳で
「花島......。あれって......」
木のツルが寄生された給仕は右腕に木のツルが巻かれ、目はくり抜かれ、眼球があった箇所からも木のツルが飛び出しており、まるでゾンビ映画に出て来るゾンビのようなビジュアル。
腹からは出血しており、足取りもたどたどしい。
こちらの姿が見えていないのか、木のツルが寄生した給仕は外に出ようと玄関扉の方に向かって歩く。
「外に出したらマズイ。とりあえず、拘束するぞ」
俺は足元で蜷局を巻いている岩石の蛇に木のツルが寄生した給仕を拘束するように指示。
岩石の蛇はそれに従い、ガッチリと給仕を拘束した。
「_______アアアアア!!!」
岩石の蛇に拘束された事で今まで大人しかった給仕が獣のような声で鳴きながら、腕に絡みついた木のツルを叩きつけるようにして、周囲を破壊し始める。
「お、おい、ほ、他も出て来たぞ!」
給仕の声を聞いてか、給仕室の中から木のツルに寄生された他の給仕や執事もぞろぞろと出てきて「とりあえず、ここは離れよう! 屋上に避難だ!」と俺は二人に声を掛け、階段を駆け上がった。
「くそ! 俺達が国を離れている間に一体何があった!?」
この事態を引き起こしたのはオッサンの仕業で間違いない。
だとすると、近くにはシルフもパスもいたはずだ。
いくらシルフがオッサンに傾倒しているからといって自分の国や給仕があんな状態になっているのを見過ごすはずがないはずだが......。
「三人とも無事かな!? あいつらみたいに木のツルに寄生されているんじゃ......」
ホワイトは走りながら弱音を吐き、俺は凛とした顔でホワイトを律する。
「余計な事は考えるな。あのオッサンに精神支配の力がないとも言い切れない。弱みは漬け込まれるだけだ」
「う、うん。そうだね」
ホワイトが弱気になるのは分からない事もない。
俺達の背後には今までミーレやレミー、ゴーレム幼女という強者の存在があった。
強者というものはその場にいるだけで周囲の者達に自信という力を与える事が出来る。
今まで俺達は強者の存在に助けられてきた。
それは精神的な面も然り。
強者の存在がない今、力及ばずとも精神面だけでも強くならなければいけない。
それが今、俺に出来る精一杯の事だ。
「よし! その扉を開ければ屋上に着くぞ!」
赤い絨毯が敷かれた廊下を駆け、何段もの階段を上ると先に木製の大きな扉が見える。
一度、城を探索した時にたまたま見付けた屋上に繋がる扉。
屋上からはホワイトシーフ王国や近隣の森が一望できる。
今は夜だが屋上から見れば新たな情報が入手出来るかもしれん。
それに、もしかするとシルフやパス、サンが屋上に避難しているかも......。
「よし! 開けるぞ!」
微かな希望と望みを抱き、俺は屋上に繋がる扉を勢い良く開けた。
______屋上______
「遅かったな。花島。俺は待ちくたびれたぜ」
「......オッサン。この状況は一体何だ!? シルフやパス、サンをどこにやった!」
学校の屋上のように広い空間には石畳が敷かれ、雲間から現れた赤い月によって周囲は赤く照らされている。
俺達から数十メートルほど離れた位置にオッサンが一人、黒いマントを身に付け、不敵な笑みを浮かべながらこちらを見やる。
「おいおい。そんなにギャアギャア騒ぐなって。まぁまぁ、少し落ち着こうや。同郷出身なんだろ? 冷静に話し合おうや」
「話す!? お前は仲間を平然と殺し、給仕達もあんな姿にしただろうが! そんな残虐非道な奴と話なんか出来るかよ!」
オッサンは子供のような仕草で耳を塞ぎ、俺の意見を受け入れたくない様子。
興奮気味の俺の背中にホワイトがソッと手を当て、自身が一歩前に出る。
「この状況を招いたのには何か理由があるんでしょ? いいよ。それを聞いてあげる」
「おお! 理解が早くて助かる!」
「その前に一つ、質問させてくれる? シルフやパス、サンは無事?」
「ああ。今のところはな」
今のところは......。
そう言うとオッサンは黒マントの袖から鈍色に輝く白い魔石を取り出し、俺達に見せる。
「それは? 魔石?」
「あぁ。そうさ。この中にはサキュバスの少女と赤ん坊が入っている」
「パスとサンをどうする気______」
二人の名前を耳にした俺は咄嗟に声を荒げ、今度はホワイトの兄に止められる。
「い、今、二人の命はあ、あいつの手の内だ。こ、ここは冷静に」と声を掛けられた事で鼻息を荒くしながらも俺は一歩身を引いて状況を見守る事にした。
「......シルフは?」
俺の言った事が効いたのか、いつになく冷静な態度でホワイトがシルフの安否も確認。
「......シルフ。出て来い」
オッサンがまるで屋敷の主人のような口調で言葉を発すると、オッサンの後ろからゆっくりとシルフが姿を現し、俺達、三人は変貌したシルフの姿に息を呑んだ。
「し、シルフなの......?」
「う、うわ!」
「し、シルフ......。なのか?」
オッサンの陰から現れたシルフは腕に木のツルが巻かれ、心臓部に拳大程の木の実のようなものが寄生していた。
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