第170話お母さん! オッサンに居場所を取られました
___ホワイトシーフ王国・町___
朝になり、オッサンがみんなを「外に散歩にでも行くか!」と誘い出し、俺達はしぶしぶ外に出た。
っうか、外に出る前に自己紹介くらいしろよ。
と自由奔放なオッサンにイライラしてしまう。
「シルフのあの話、本当なのかな?」
前方を歩くオッサンとシルフを横目にパスは俺にこそっと耳打ちし、昨夜、シルフ自ら語った事を相談してくる。
昨夜、シルフは「オッサンは異世界から来た+自身の婚約者」の衝撃の二つのワードを言い放つとオッサンと出会った経緯を俺たちに説明。
どうやら、シルフが幼少期に森で迷子になっているところを同じく森で迷子になっていたオッサンに助けられ、共に森で共同生活をし、数週間後に救助されたらしい。
数週間の間にシルフはオッサンの生い立ちなどを聞き、異世界から来たという事を知り、共同生活をするうちに逞しいオッサンに惹かれたとのこと。
なに、そのターザンみたいな話。
と心の中で呆れてしまったが、初恋を語る感情豊かなシルフに一同何も言えなかった。
少女のように頬を赤らめながら話すシルフは年相応なのにどこか不自然で、緩んだ口元にイライラした事を思い出し、パスの問いに対して「知らねえよ」とぶっきらぼうな対応をしてしまった。
「あ! マモルさん!」
「え!? マモルさんが来たのか!?」
「ほ、本当だマモルさんだ!」
あ?
なんだ?
町を散策していると、路地から出て来た少年がオッサンの名前を大声で呼ぶ。
すると、ピンク色の家々の窓が一斉に開き、今までいないと思っていた住民達が窓から顔を覗かせ、俺達一行______オッサンに手を振る。
「おうおう! みんな、おはよう! 今日もいい朝だな!」
笑顔で手を振るオッサンはオリンピックで優勝し、凱旋してきた王子のように黄色い声援が送られ、俺は頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされた。
「一体、何だ? この異常な人気ぶりは... ...」
その光景を見て、頭の中に浮かぶのは”洗脳”の二文字。
ハンヌの事案もあり、俺は洗脳に対して、アンテナが敏感になっており、目の前の出来事も同じなんじゃないかと考えた。
オッサンは魔法を使う事が出来る。
魔力がない住民達を洗脳することは容易だろう。
「マモルさん。人気なのね」
シルフが冷ややかな目線でオッサンを見ると、オッサンはシルフの足を抱きかかえ、お姫様抱っこをする。
「______きゃあ! ちょっと! 恥ずかしいわ!」
「ガハハハッ! シルフ! ヤキモチ焼いているのか!?」
「や、ヤキモチなんて焼いてない!」
「そうか! だったら、そんな顔するな!」
オッサンに見つめられたシルフは子猫のように大人しくなり、オッサンはシルフを抱きかかえたまま、メイン通りの奥まで足を進めて行った。
「... ...花島。何やっているの?」
「え? ワナ作ってるんだよ。帰る時にオッサン転ばせようと思って」
「... ...そういうの止めようよ」
「なんで? いいじゃん! ホワイトまでオッサンがいいのかよ!」
「いや、そうじゃなくて... ...。花島、カッコ悪いよ」
「ああ。大丈夫。俺はワナ作っても作らなくてもカッコ悪い事に変わりないから」
「そうだけどさ... ...」
そうだけど!?
お前、「そんな事ないよ」くらいのフォロー入れろ!
俺、泣いちゃうよ!?
「うーん。やっぱり、おかしいよな~」
ホワイトの心ない言葉に背中を小刻みに揺らしていると、背後からパスの唸るような声が聞こえ、振り返り、「何がだ?」と質問。
「うん。マモルさんから魔力を感じないんだよねー」
「魔力を感じない? あいつ、俺達の前で魔法使ったぞ?」
詠唱も行ったし、ホワイトの能力で魔法を打ち消したし、俺はパスが勘違いしているのだと思った。
しかし、ホワイトは定期的に魔力を吸収しなければならないサキュバスという種族。
魔力を感じる能力についてはミーレやレミーよりも高い。
「そうなんだけど... ...」
「聞きたかったんだけど、この世界には”魔法”と”能力”の二つが存在するんだよな?」
「うん。どうしたの? 改まった顔して」
「え、ああ。いやな、その二つ以外にも何かしらの特異な力って無いのかな? って単純に思ってて」
この世界では魔法と能力の二つの異能が存在し、力の強さでいうと、魔法>能力という感じで能力者は魔法を使える者には勝つ事が出来ない。または出来にくい。
何故かというと、相性のようなものがあるらしいのだ。
よく、ゲームなどで火は水に弱く、草や木に強い。
という法則があるが、この世界の魔法と能力の関係はそれに近いらしく、それ故に魔女という種族が弱肉強食の世界の頂点に君臨するようだ。
ただ、世界の理として、それではバランスが取れない。
どんな世界でも弱点や天敵はあるはず。
能力>???>魔法>能力
という感じで魔法に強く、能力に弱いものがあっても良いはずじゃあ... ...。
「ん? どういう事?」
パスは俺の言っている事が理解出来ない様子。
単純におバカというよりも、常識の範囲外から来た発想に困惑している感じだった。
「花島はマモルさんが魔法や能力以外の力を持っているんじゃないか? って言いたいんでしょ?」
「え? あ、ああ。そうそう。それだったら、ホワイトの能力で打ち消せた事にも納得出来るしな」
普段は少し天然っぽいところがあるホワイトだが、地味に頭が良い。
そういや、ホワイトの父親や母親はホワイトとは違って小奇麗な格好をしていたし、家の中も綺麗だった。
もしかすると、ホワイトって本当は頭良いのかな?
「私の能力は魔法を打ち消す事が出来る力で、それが強みだと思ってたんだけど、実はウイークポイントだったって事だね。弱い魔法しか打ち消せないし」
「そうそう! 謎の能力には絶対的な力をほこる的なやつ!」
俺とホワイトが会話を繰り広げる中、パスは理解出来ない様子で顔を子犬のようにキョロキョロさせていた。
「よし! じゃあ、こうしよう! パスは住人達からオッサンの評判と俺達がいない間に何をしたのか探ってくれ!」
「うん」
「で、俺はオッサンの能力については調べる!」
「そんな事、花島に出来るの? まだ、この世界で解明されていない力なんだよね?」
「あぁ。ちょっと、心当たりがあってな」
「あれ? 花島? 私は何をすればいいのかな?」
「ホワイトはちょっと、俺と一緒に付いてきてくれ」
「分かったよ」
そうして、パスと別れた俺とホワイトは一緒にある場所まで向かった。
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