第142話お母さん! ゴーレム幼女の過去①
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__ルピシア王国__
花島が異世界に訪れる五百年前。
この世界は戦乱の時代であり、国と国の戦いが至る所で繰り返されていた。
「衛生兵! 誰か衛生兵を呼べ!!」
「ぐあぁぁぁ!!! 足が足がっ__」
敗戦国は勝利した国に全てを奪われる。
男は嬲り殺され、女は死ぬまで慰みモノとして犯され、子供は労働力として奴隷のような扱いを受け、死ぬまでその待遇は変わらない。
家や土地、家畜も全て焼かれ、敗戦国者はその場で帰る場所を失う。
「あぁ!!! シルヴィア! 目を覚ましてくれ!!!」
焼け落ちた家の脇で人の形をした黒い炭の塊を抱きかかえながら銀色の甲冑に身を包んだ初老の男が天を仰ぐ。
天を見上げた男は空を覆い尽くす無数の聖リトアニア国の魔術師部隊に向け。
「最悪の魔女... ...。必ず殺してやる」
西暦272年10月
開戦から一週間後、ルピシア王国陥落__。
◇ ◇ ◇
__聖リトラレル王国__
街では勝利した兵士達を讃えるため、メインストリートの周りは住民達でごった返している。
レンガ造りの建物の窓からは兵士に向かって手を振る子供や女性の姿。
パレードを見ている少女は群衆の中から飛び出し、隊列の中にいる父親であろう人物に抱きつく。
鎖で繋がれ、隊列の最後尾を歩く敗戦国の子供達はその光景を恨めしそうにジッと見ていた。
「おい。あれが最悪の魔女か?」
「あぁ、どうやら、今回もあいつ一人で国を壊滅させたらしいぞ」
「まだ子供じゃないか」
敗戦国の子供達の後ろを一際目立つ金色の髪をなびかせながらシュタイナー・レインは自身に向けられる好奇の目を気にする事なく、目的地である聖リトラレル城まで黙々と足を進める。
◇ ◇ ◇
__聖リトラレル城__
白で統一された城内は天井高が10mほどあり、円形状の形をしている。
扉や開口部である窓はアーチ状に縁取りをされており、穏やかな雰囲気を演出し、聖リトアニア王国の近くの採石場で取れた無数の鍾乳石の柱で城を支えている。
絶対王政を象徴するような鉄の彫刻を施した門扉の先には赤い絨毯が敷かれ、延長線上に宝石が散りばめられた金色の椅子に座る、君主の姿。
黄金の甲冑に身を包み、紫色の丸い果実を口に頬張りながら。
「皆のもの。大義であった」
少し高い位置に鎮座する君主の足元には数名の兵士とレインの姿。
立膝を付き、君主への絶対的な忠誠を誓う姿勢を取っている。
「レイン。また、お前の独壇場だったみたいじゃあないか」
君主はニヤニヤと下衆な笑みを浮かべながらレインを讃える。
君主の言葉にいち早く反応したのは当事者であるレインではなく、聖リトラレル王国の3つの軍を統率するパシオスであった。
「ええ。正に鬼神の如き強さです。前任のアイネスクラウスも中々の逸材でしたがレインは500年に1人の才能を持っている。それを見抜かれたリトラレル王の先見の眼に感服いたします」
銀色の甲冑に身を包んだパシオスは君主を称賛し、リトラレル王も満足気に鼻を高くする。
それを横目に第一部隊の指揮を執るケイン・レディウスと第二部隊の指揮を執るオルデア・カルタスは強く唇を噛んだ。
「レイン。顔を上げても良いぞ」
「はい」
君主の声に従うレイン。
絹糸のように美しい髪は城に入る木漏れ日に反射し、君主の身に付けている黄金の甲冑に引けを取らないほどに輝きを放ち、金色の瞳と相まってか神々しい雰囲気を醸し出している。
「お前はいつ見ても美しいな... ...。ほれ、もっとこっちに寄れ」
唇を舌で一舐めし、君主はレインに手招き。
「ありがとうございます。しかし、私は今、返り血を浴びています。リトラレル王の服を汚してしまうのはいかがなものかと」
レインは色が無い瞳でそう答えた。
「気にするな。早くこい」
「... ...はい」
君主は近寄ってきたレインの腰に強引に腕を回し、レインの柔肌に頬擦りし、恍惚の表情を浮かべている。
レインは人形のように黙ってそれを受け入れた。
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