第94話お母さん! 男の憧れ

「ほ・本当にこんな格好で出て行かなくちゃいけないの!? 僕の適材適所って... ...」


 ヴァ二アルはまたもや恥ずかしがってこちらに姿を現すのを躊躇しているようだ。

 猟犬どもは風に乗って聞こえるヴァニアルの声に過剰な反応をみせる。


「ヴァ二アルちゃんの声が聞こえるぞ!」

「本当だ! あの天使の囀りを俺たちが聞き逃すはずがない!」

「どこだ!? どこにいるんだ!?」


 先ほどのお通夜のような状況とは打って変わって、廃人のように座り込んでいた有象無象のゾンビ達が光を見つけ動き出した。

 そして、誰が言い出したか定かではないが、自然とヴァ二アルコールが辺りを包む。


「ヴァ二アル! ヴァ二アル... ...!」

「ヴァ... ...! ヴァ二アルー!!!」

「ヴァ二ア! ヴァ二アアアアア!!!」


 ヴァ二アルが現れてもいないのに、ヴァ二アルが登場するという期待感だけでこの有り様。

 中には過呼吸気味の奴もチラホラといる。

 

 こいつはスタイルチェンジしたヴァ二アルが現れたら死人が出るかもしれん... ...。


「おい! ホワイト! 今のうちに担架用意しとけ! 死人が出るかもしれん!」


「えっ!? 死人!?」


「いいから早く!」


「わ・わかったよ!」


 ホワイトは何がどうなっているのか困惑している様子。

 気持ちは分かるが念には念を入れなくてはいけない。


「ほら! みんな呼んでるから早く出るみそ!」


 路地からゴーレム幼女に引っ張り出されているヴァ二アルの影だけが見えている。

 

「でも、この格好は恥ずかしいって!」


「そんなのさっきと対して変わらんみそ!」


 どうやら、ヴァ二アルは相当表に出るのが嫌らしい。

 ゴーレム幼女に作らせた衣装はそんなに恥ずかしいものだろうか? 

 いや、そんな事はない。


 このままでは埒が明かないので俺は再びテレパシーでゴーレム幼女に急がせるように指示を出す。


『もう、面倒だからこっちまで放り投げていいぞ。どうせ、死にはしないから』


『私もちょうどそうしようと思ってたみそ!』


 ゴーレム幼女は大きなカブを抜くように「せーのっ!」と声を出し、抵抗するヴァ二アルを民衆がいる場所まで放り投げた。


「うわあ!!! 落ちる!!!」


 大砲から発射された砲弾のように飛んできたヴァ二アルを受け止めようと俺は落下地点であろう場所までダッシュ。

 魔法少女達にボコボコにされた時と比べれば女の子一人受け止めるなんて容易い。

 それに俺は筋トレもしているから思った以上に筋肉があると自負している。


「うわあ!!!」


 _____ぽすっ... ...。


「ふう。何とか間に合った... ...。ぐはっ!!!」


 ヴァ二アルを無傷で受け止めた直後、俺は血反吐を吐いてその場に倒れ込んだ。


「花島!? 大丈夫!?」


 俺が倒れたのを見て、ドスドスと地響きを立てながらホワイトが近づいてくる。

 

「あ... ...。ああ。ヴァ二アルがどんな姿になるか想定していた俺でさえもこのざまだ。本当に死人が出るかもしれない... ...ぞ」


「死人??」


「____うわあああ!!!! ぐはっ!」

「... ...ハアハア。い・いきがっ____!」

「... ...ああ。天使は本当にいたんだ」


 俺の後についでどんどんと町人達が倒れていく。


「何!? 何が起きているのさ!? また、ハンヌが来たの!?」

 

 動揺しているホワイトに俺は無言で事の発端である世界の始まりと終わりを象徴するものを指さす。


「あ・あれって... ...」


「いたた... ...。ゴーレムちゃん、投げ飛ばすなんて酷いよ... ...。それにしてもこの服なんなのさ... ...。生地は薄いし、お尻のところに食い込むんだけど... ...」


 そして、ヴァ二アルは無意識にお尻に食い込んだ服の生地をグイっと引っ張り元に戻す。

 それを見た俺は再び血反吐を吐いた。


「ぐっはっ!」


「は・花島! 大丈夫!? それにしてもあの服は一体... ...。ちょっと、露出度高すぎない??」


「ハアハア... ...。何を言っているんだホワイト。あれは俺がいた世界では神器として扱われていたもの。正に服の中の服。BEST OF BESTだぞ!」


「えー。ただ、紺色の薄い生地着ただけじゃ... ...」


「そう。ただ、それを着ただけ。しかし、服というものは時に裸よりも人をいやらしく演出できるものだ」


「... ...そう」


 服による締め付けがいい塩梅で出来ているのでヴァ二アルの豊満なバストを更に強調し、服と素肌の境目には隆起した肉が乗り、そして、破裂寸前の生地はどこか安住の地を探しながら旅をし、そして、尻というオアシスにたどり着く。

 生地の力が尻に集まることにより、尻に食い込み、尻の食い込みが気になった着用者は自然とそれを直そうとする。

 直した時にチラリと見えるDEEPポイント。

 天使の笑い声のような服と肉が弾ける音。

 そう、これが男の憧れ。

 希望。

 誉れ... ...。


「これがスクール水着だっ... ...」


 そして、俺は出血多量によりホワイトの腕の中で意識を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る