「帰る」 塒 ~でんたま~

 夏の太陽はいつまで経っても中空にぶら下がっているものだから、どうにも時間感覚がおかしくなってしまう。

 まだ昼過ぎだと思っていたのに、気づけばとうに夕刻を過ぎていて、まだ明るい空に鐘の音が響く。

 帰らなきゃ。無意識にそう呟いて、ぐっと胸を押さえる。


 ――帰る? どこに?


 烏の嘲笑がこだまする。


 ――他の子はみんなおうちへ帰ったよ。お前はどこへ帰るんだい?


 ああ、うるさい、うるさい!

 烏にさえねぐらがあるというのに、どうして――!


「ここにいたのか」

 不意に響いた声に、肩が震える。

 黒尽くめの神官衣は、まるで地面に伸びた影のようだ。

「帰るぞ」

 夕日色の瞳を細めて、養父が笑う。

「……おう」


 帰る場所がある幸福げんじつには、まだ慣れない。

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