「渡す」 合鍵 ~垂れ耳エルフと世界樹の街~

「はい」

 まるで新聞でも手渡すように、ひょいと差し出されたのは、一本の鍵。

「なんだよ、これ」

「鍵だけど?」

「んなこたぁ分かってら! なんで俺がこの店の鍵を持たなきゃならねえんだ!」

 そもそも、この店の扉に鍵などついていただろうか。訝しむオルトに、店主は得意げに胸を張った。

「女の子が寝泊まりする家に鍵がかからないのは不用心だと思って」

 とても、壊れかけた扉を一年も放置していた人物の発言とは思えない。

「鍵があれば、いつでも入れるでしょ」

 これで安心して昼寝が出来る、と手放しで喜ぶ店主に、やれやれと頭を掻く。

 信用してるから、などとは決して言わないくせに、こういうことを平気でやるから、この男は油断ならないのだ。

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