第33話 蒙古斑みたいに

友達の結婚式があり実家に戻ったが、母だけならまだしも、犬からまでも忖度を求められて若干凹んだ。嫁いで実家から離れると順位が下がるのだろうか。

地元に戻った翌日から気温がダダ下がりで、実家も遂にストーブを点火した。

一足早い冬の訪れにストーブのありがたさが身に染みると、ストーブにへばりついて炎を見ていたところで、ふと夫が北海道でシェアハウスの管理人をしていた時のことを思い出したので今回はそれを書くことにしよう。


付き合って半年くらいのことだ。夫は知り合いの紹介で本職の傍らシェアハウス的なものの管理人をしていた。海外から帰った秋の終わり、これからどこに住もうかと探していた矢先に「管理人をしてくれるのなら格安で住んでいいよ」と声をかけられたので飛びついたのだった。シェアハウス的なものというだけあってきっとそれなりに広いのだろうなぁと思っていたら、古民家(屋敷)だった。


夫が来る前は常駐する人がおらず、夏場に別荘のようなノリでオーナーが使っていたこともあり管理がガバガバだったことから、ホームレスが住んだりしていたらしいという噂も出るくらいの物件だった。他にも野生生物が出たり水道管が爆発して廊下が凍ったりもしたがそこは本筋からズレるので割愛する。


古民家は現代の北海道の家とは違い、本州の家屋と同じように壁が薄い。なお夫のいたハウスは立地が山の中だったので夏場はその壁が最高に良かったのだが、冬場にはどうなるか…。容易に想像できるだろう。そう、超寒いのだ。

しんしんと降り積もる雪が防寒になるって!と一部の道民は言うかもしれないが日本家屋には毒にしかならない。道民という寒さに慣れている筈の私でさえも、訪問した時にコートが脱げなかった。


ストーブを灯しっぱなしにしても異様に広すぎる部屋と隙間のある壁で温かくなる前に速攻で冷やされるのだ。そのため夫はストーブに布団を隣接させて寝ていた。危ない寝方だ。その日は布団を吹っ飛ばして寝ていたせいか、気が付いた時には尻が火傷していた。火事にならなくて本当によかった。しかし本人は火傷に気が付いていなかった。ちなみに夫の火傷を最初に発見したのは私だ。


あれからもう3年ほど経ったが、まだ彼の火傷痕は消えておらず

夫の尻にはハート形のような痕が残っている。蒙古斑みたいに。

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