第3話 コイバナをする関係

「彼氏ができた」

 はにかみながら嬉しそうに報告する奏多は、再会したときと比べて明らかに雰囲気が変わった。

 ほぼすっぴんだったのが薄くメイクをするようになったし、軽やかな素材の服を着ている頻度が高くなった。

 Tシャツにジーパン、スニーカーをはいてリュックを背負いざくざく歩く姿は過去のものになりつつある。

 二十歳になったから、だけではないだろう。

 今日は伸びかけの髪を編み込んでいた。

「おめでとう」

「ありがとう」

「僕も彼女ほしーな」

「広瀬におらんのが不思議やけどね」

「優しい人って言われて対象外になるっぽい」

「あーわかるわ」

「えー」

 地元の安いケーキ屋は、同じようにふわふわとした笑顔の客で一杯だ。

 頬を緩ませている奏多は、心から幸せなんだと理解した。




 香ばしい匂いが鼻をくすぐる。そろそろいいだろう。

 火を止めて、クリアボックスからTシャツとスウェットを出す。タオルとセットにして脱衣所に置いた。

 お風呂ももうすぐ沸く。

 こんこん、とドアをノックする音が聞こえる。

「あいてるよー」

「……お邪魔しまーす」

 奏多はドアを閉め、ビニール袋を下げて買い出しから帰ってきた。

「お風呂沸いてるよ。ごはんは鍋のなかに入ってるから全部食べちゃって」

「ありがとう」

「何時に帰れるかわからんから、ご飯と風呂済ませたら先寝てて。ベッド使っていいから」

「広瀬は?」

「遅くなると思うから、僕のことは気にしないで。鍵は閉めとくから」

「わかった。じゃあ、お風呂借りるね」

「ん。終わったらお湯流しといて」

「はーい、ありがとー」

 脱衣所に消えていった瞬間、僕はずるずると座り込んだ。

 異性を家にあげたことはこれが初めてで、一体全体どうしたらいいか、考え始めたら止まらなくなったからだ。





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